個人再生をすると掲載される官報について、掲載される情報および周囲に広まるリスクについて概説します。個人再生をすると官報に個人情報が載ることは法律により決められており、拒むことはできません。しかし、官報を日常的に読む職種は限られているので、友人や知人に知られるおそれは低いでしょう。それ以外のデメリットや、官報に載らない債務整理についてもまとめました。
個人再生すると官報に掲載される?

個人再生手続をすると、官報に名前や住所が掲載されます。もっとも、官報を継続的に読むのはごく一部の人に限られるため、官報掲載によって家族や近所の人などに個人再生したことが知られるおそれはほとんどありません。
個人再生は、裁判所を通じて行う借金減額の手続きで、借金総額を5分の1~10分の1程度に大幅に減らせます。その代わりのデメリットに、官報に個人情報が掲載されることがあります。
個人再生で官報に載るタイミングは3回あります。
(1)個人再生手続の開始決定のとき
(2)①小規模個人再生の場合…再生計画案を書面決議に付する旨の決定があったとき
②給与所得者等再生の場合…再生計画案を意見聴取に付する旨の決定があったとき
(3)再生計画認可決定があったとき
官報は行政機関の休日を除いて毎日発行され、情報量が非常に多く、まめに官報をチェックしている人はごく一部の職種の人などに限られます。また、データはpdf形式で、個人再生した人の名前がGoogleなどの検索で出てこないよう配慮されています。
このように、官報掲載からの個人情報漏洩を過度に気にする必要はありませんが、どうしても気になる場合は、個人再生ではなく任意整理で対応できるケースがあります。事前に専門家に相談されることをお勧めします。
官報にはどういった情報が掲載されるのか
官報は、主に法令の交付など、政府から国民に向けての重要な公的情報を掲載した機関誌です。また、国の政策を周知したり、国民の権利義務に関する各種の公告(会社法による法定公告等)を掲載したりしています。
目次
【官報に掲載される主な情報】
・法令の公布
法律、政令、条約などの公布を国民に知らせます。
・公文
政府や各府省などが公布する文書、例えば国家の決定事項や各府省の決定事項、国会に関する事項などが掲載されます。
・公告
競争入札に関する告知や、法律で公告が義務付けられている裁判所公告などが掲載されます。個人再生や破産をした者は、この裁判所公告に記載されます。
このように、官報は新聞ではないので、読み物としてはあまり面白くはありません。ただ、紙幣や通貨のデザインが変わるときや、国に貢献した人たちの叙位・叙勲、司法試験などの国家試験の合格者の氏名等が記載されるので、たまに官報を読むという人はいるでしょう。
官報は国の法令や公示事項を掲載し、国民に周知するための「国の公報」として紙の印刷物をもって役割を果たしてきましたが、「官報の発行に関する法律」の施行により令和7年4月1日から電子化されました。
従来の紙の官報は、国立印刷局等での掲示や、全国の官報販売所での販売を通じて国民が官報を閲覧し、又は入手することができる状態に置かれることをもって発行されてきました。
電子化後は、官報発行サイトに掲載されることをもって発行されることとなり、同サイトに掲載される電子化データが官報の正本となります。
インターネット版官報(https://www.kanpo.go.jp/)
何故、官報に個人再生の情報が載るのか
なぜ、国の重要な決定事項を掲載する機関誌に、個人の借金整理の情報である個人再生のことが載るかというと、お金を貸した債権者が、個人再生のことを知る機会を与えるためです。
個人再生をすると、借金が大幅に減額されますが、これは債権者にとっては貸したお金の大半が返ってこなくなることを意味します。
個人再生の際は、債務者は誰からいくら借りたかを調査し、債権者一覧表を作成して裁判所に提出します。この一覧表に載っていれば、債権者には通知が行きます。しかし、債権者が多数いる場合など、記載漏れがあるケースも考えられます。
債権者は、通知が来なくても、官報をチェックしていれば、自分がお金を貸した相手が個人再生をしたとわかり、手続きに参加できます。手続きに参加すれば、貸したお金の一部は返ってきますし、小規模個人再生の場合、再生計画案に納得がいかなければ異議を唱えることもできます。
債権者は、手続きに参加できなかった場合、貸したお金が返ってこなくなるという大きな不利益を受けます。そうした事態を防ぐため、官報に再生手続をした者の情報を掲載し、債権者に手続参加の機会を知ることができるようにしているのです。
官報に掲載されるのはどういった情報か
個人再生をした際官報に3回掲載されます。個人が特定されうる情報としては、「再生債務者の住所・氏名」があります。
① 個人再生手続きの開始決定
② 小規模個人再生について再生計画案を書面決議に付する旨の決定がなされたとき。また、給与所得者等再生については意見聴取に付する旨の決定がなされたとき。
③ 再生計画認可決定がなされたとき
このように、債権者が「自分がお金を貸した相手だ」と認識し、期間内に手続きに参加するために必要な情報だけが記載されます。例えば、再生債務者の性別・年齢・生年月日などは掲載されません。
官報掲載は罰則やペナルティではないので、必要最低限の個人情報しか掲載されないのです。
個人再生が官報に載らない方法はあるのか
個人再生をする際は官報に掲載されることは法律上決まっています。民事再生法35条には、「再生手続開始の公告等」として、「裁判所は、再生手続開始の決定をしたときは、直ちに、次に掲げる事項を公告しなければならない。」と定められています。
「個人情報を知られたくないから…」という理由はもちろん、いかなる理由があっても、官報掲載を拒むことはできません。
前述したように、官報から友人や近所の人に個人再生のことが知れ渡るリスクはとても低いことや、官報掲載の理由は債権者が手続きに参加する機会の保証であって、最低限の情報しか載らないことなどから、官報への掲載を過度に気にする必要はありません。
ただし、どうしても官報に掲載されたくないという場合は、裁判所を通さない債務整理である任意整理ならば掲載されません。
任意整理は借金問題が比較的軽い方のための手続きですので、任意整理で解決可能かどうかは、事前に弁護士にご相談ください。
個人再生で官報に掲載された情報はいつまで閲覧できるのか
官報は、官報発行サイトから90日間は無料で誰でも閲覧できます。90日経過後も、有料会員(月額2,200円)になっていれば過去の官報を閲覧・検索可能です。
動画や音楽のサブスクリプションと比べても安くはありませんので、有料会員になる人は、仕事で日常的に官報を閲覧する必要があるケースがほとんどでしょう。興味本位の人が、有料サービスに入ってまで再生債務者の情報を調べる恐れはほぼないと言えます。
官報掲載で周囲に個人再生したことが知られてしまうケース
基本的に、官報は一般人が日常的に読む紙面ではないので、知られる可能性はほとんどありませんが、家族・友人・勤め先などが以下の職種の場合は、知られる可能性があります。
- 金融業者
- 信用情報機関
金融業者は、債権者として手続きに参加する可能性が高いので、日常的に官報をチェックしています。また、信用情報機関は、加盟している金融機関の利用者が個人再生をした場合に事故情報として登録するのが仕事なため、官報を欠かさずチェックしているでしょう。
その他にも、以下の職業については、官報を閲覧する可能性があります。
- 弁護士や司法書士などの士業
- 保険会社
- 市区町村の税務担当者
- 警備会社
- 不動産会社
ただし、日常的に見るとは限らず、官報を読む頻度や範囲はその会社や個人が担当する仕事の内容にもよります。したがって、必ずしも知られるとは限りません。
官報掲載のデメリット
官報掲載によって発生するデメリットには以下の4つがあります。
(1)家族や知人の職業によっては個人再生したことが知られる
周囲に金融機関や信用情報機関に勤めている人がいる場合、個人再生をしたことが分かってしまう恐れがあります。もっとも、前述したように官報を日常的に閲覧する職種は少なく、リスクは低いと言えます。
(2)官報掲載料を取られる
官報に掲載する料金は、東京地裁の場合、3回の官報掲載料3回分の合計で1万3,744円かかります。この料金は個人再生の申立て時に予納金として裁判所に納め、裁判所が国立印刷局に支払います。
(3)闇金からDMが来る
個人再生手続を行った人は5~7年の間、新たな借金が難しくなります。この期間にお金に困っている人を狙って、闇金がダイレクトメールを送ってくることがあります。
個人再生をすると、信用情報機関が保管している個人の信用情報の記録に個人再生の事実が記載されます。信用情報機関には金融機関や貸金業者が加盟しており、新たな借金の申し込みの際などには信用情報機関の記録を参照します。記録は5~7年経つと削除されますが、掲載期間中はどこの金融機関や貸金業者でも新規の借り入れが難しくなります。
個人再生手続をして借金を減額しても、予想外の出費によりお金が必要になる場合もあるでしょう。そんな人を狙って、闇金が融資の誘いをしてくることがあります。闇金は、非合法な高金利と引き換えにお金を貸す業者で、官報を利用して個人情報を取得していると言われています。
一度でも闇金からお金を借りてしまうと、情報が悪用されて、さらに闇金から融資の誘いがきたり、犯罪に利用されたりするおそれがあります。闇金からは絶対に借りないようにしましょう。
(4)破産者マップと新・破産者マップ
破産者マップとは、かつてインターネット上に存在した、自己破産や個人再生をした人の情報を収集し、Googleマップに関連付けして表示するサイトのことです。現在は行政指導により閉鎖されています。
2025年3月現在、類似のサイト「新・破産者マップ」が削除されずに残っていますが、こちらは削除申請に金銭を要求する悪質なサイトとなっています。新・破産者マップには個人情報保護委員会からの停止勧告が出ており、これに応じなかったため警視庁に刑事告発を行うなど、公的機関が閉鎖に向け動いています。
不適正な個人情報の利用は禁止されていることを知りながら、あえてこのような悪質なサイトで情報収集をする人は限られていますので、過度に心配する必要はないでしょう。新・破産者マップに情報が載ってしまった場合、直接連絡を取らず、弁護士に相談しましょう。
官報に掲載される債務整理とされない債務整理
裁判所を通した債務整理である個人再生および自己破産は官報に掲載されますが、任意整理は官報に掲載されません。
合法的な借金負担の減免手続である債務整理のうち、一般によく用いられる方法には、個人再生・自己破産・任意整理があります。個人再生は借金を大幅に減額でき、自己破産は借金をゼロにできる強力な手続きです。その代わり、裁判所を通す公的な手続きのため、官報に個人情報が掲載されるのは避けられません。
これに対し、任意整理は、弁護士に依頼して借金の利息カットやリスケジュールを債権者と交渉する手続きです。借金の元本は原則として減額できませんが、官報に名前が載ることはありません。
任意整理にはこの他にも、以下のメリットがあります。
- 整理対象とする債権者を選べ、連帯保証人に迷惑をかけずに済む
- 同居の家族にも知られずに借金の負担を減らせる
- 手続きが簡単
最も、官報掲載によるデメリットは少ないので、これにこだわらず、ご自身の状況に最適な債務整理を専門家と相談の上検討されることをお勧めします。
個人再生する場合は弁護士に相談を
個人再生は財産を手元に残しつつ借金を大幅に削減できるメリットがありますが、手続期間が長くなったり、煩雑になったりするデメリットもあるので、事前に弁護士とよく相談されてから申立てることをお勧めします。
個人再生は、債務整理の中でも手順や準備する書類が多く、最も手間がかかる債務整理として知られています。法律の素人が仕事を続けながら、一人でこうした手続きをすべて行うことは難しく、弁護士に依頼して助言やチェックを受けながら行うのが一般的です。
また、個人再生を希望されていても、ご自身の事情によっては自己破産や任意整理での解決が適切な場合もあります。手続方法を検討する意味でも、弁護士に相談されたほうが良いでしょう。
近年では、債務整理の相談は多くの法律事務所が無料で受け付けています。複数の法律事務所に相談して、よさそうな事務所を選んで正式に依頼することもOKですので、お気軽にご相談下さい。

所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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