自己破産の原因として多いのは、「生活苦・低所得」や「病気・医療費」、「負債の返済」となっています。新型コロナウィルスの影響による自己破産は必ずしも増えていません。自己破産ができる条件や、自己破産が難しいケース、自己破産ができるかどうか不安な場合の対処法などについて概説します。
自己破産の理由として多いものは何か?
自己破産の原因として最も多いのは「生活苦・低所得」で、全体の6割を超えています。また、「病気・医療費」が原因による破産や、「負債の返済」による破産も多く、この3つの原因が自己破産の主な理由となっています。
日本弁護士連合会が行った「2020 年破産事件及び個人再生事件記録調査」によれば、自己破産に至った理由の第1位は、「生活苦・低所得(61.69%)」となっており、次いで「病気・医療費(23.31%)」「負債の返済(保証以外)(20.48%)」の順で多くなっています。
「2020 年破産事件及び個人再生事件記録調査(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/books/data/2020/2020_hasan_kojinsaisei_1.pdf) 1ページより引用」
2017年の調査と比較すると、「生活苦・低所得」「病気・医療費」の割合は変わりませんが、「負債の返済(保証以外)」が15%から20%に増えています。グレーゾーン金利が廃止されて以降、借金の返済が原因で自己破産をする人の割合は減っていたのですが、近年は再び増加傾向にあることが分かります。「教育資金」や「生活用品の購入」も増加傾向で、生活や子供の将来のために必要な資金を調達する目的でお金を借りるケースが多いのでしょう。
また、オンラインショッピングやサブスクリプションの普及などが原因か、「クレジットカードによる購入」も6%から9%に増加、「ギャンブルが原因の破産」や「浪費・遊興費」も増加傾向にあります。インターネットで簡単に商品や馬券などを購入できるようになったので、つい使いすぎてしまう人も増えたのかもしれません。
新型コロナウィルスの影響による自己破産は増えているのか
裁判所の司法統計によれば、コロナ禍中の自己破産は増えてはおらず、むしろ減っていることが分かります。そのため、新型コロナウィルスの影響で自己破産が増えたとは言えません。
裁判所の「司法統計年報(民事・行政編)」に掲載されている、令和3年~5年(2021年~2023年)の破産新受事件数は以下の通りとなっています。
新型コロナによるパンデミックが起きる前の令和元年(2019年)の件数は73,095件でしたから、むしろ自己破産が減ったことがわかります。新型コロナに関しては、政府や社会全体が強い危機意識を持っていたため、給付金や無利息の借入、住宅ローンや奨学金の返済猶予など、様々な措置がなされ、自己破産に至らずに済んだケースも多かったことが窺えます。
また、近年は少子高齢化で人手不足が深刻化しており、会社が倒産した後に、再就職先が見つからないケースが減っていることも理由の一つとして考えられます。
とはいえ、円安や物価高で食品や生活用品の価格が高騰しており、生活に困っている方も多くおられます。コロナ後、世界情勢が急速に変化する中、いつ借金の返済リスクが発生してもおかしくない状況だと言えるでしょう。
自己破産の際、理由は問われるのか?
自己破産の際は、申立ての際の書類や裁判官との面談で自己破産するに至った経緯を説明する必要があり、自己破産した理由を正直に明かす必要があります。
この際、注意しなければならないのが「ギャンブル」や「浪費」による借金で自己破産した場合です。株式やFXなどの投資についても、それが主な原因で自己破産した場合は、ギャンブルと同じ免責不許可事由に該当します。
ギャンブルや浪費が原因の借金は「免責不許可事由」に当たり、自己破産の重要な制度である「免責」が認められない可能性があります。
免責とは、借金が帳消しになる制度で、これが認められないと自己破産をしても借金が無くなりません。
免責不許可事由にあたる場合であっても、裁判所が詳しく事情を調査したうえで、裁量で免責することができます。そのため、実際には多くのケースで免責が認められています。
とはいえ、債務の大半がギャンブルや投資、また浪費等の免責不許可事由の割合が多い場合は注意が必要です。心当たりがある方は、事前に必ず弁護士に相談してください。通常の破産よりも費用や期間が多くかかる可能性があります。
生活苦や病気、収入減などが理由の自己破産については、正直に事情を説明できれば、過度に心配する必要はありません。
自己破産ができる条件とはどういうものか
自己破産ができる条件は、「支払不能であること」「非免責債権に当たらないこと」「免責不許可事由がないこと」の3つです。このうち、最後の免責不許可事由については、事情によっては自己破産が可能なケースもあります。
目次
(1)支払不能であること
支払不能とは、破産法2条11項に定めがあり、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」を指します。
一般的に支払不能かどうかは、借入総額を3年(36回)で割った額が毎月の返済可能額を上回っているかどうかが一つの判断基準になるとされます。
1,000万円を超える借金があっても、高収入の仕事をしていたり、高価な財産を持っていたりすれば、「支払不能」と認められない可能性があります。逆に、収入がほとんどない場合、少額な借金でも支払不能と認められる可能性はあります。
ご自身のケースで支払不能が認められるかどうか、判断に迷ったときは、法律事務所の無料相談などで診断してもらうと良いでしょう。
(2) 非免責債権に当たらないこと
非免責債権とは、税金や社会保険料など、自己破産をしても免責されない債権のことです。
免責債権については、破産法253条1項に以下のように定めがあります。
- 税金、社会保険料
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 夫婦間の協力及び扶助の義務、婚姻費用分担の義務、子の監護に関する義務、扶養の義務
- 雇用していた使用人の請求権、使用人の預り金の返還請求権
- 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
- 罰金等の請求権
こうした規定があるのは、税金や罰金、悪意で加えた不法行為、夫婦や親子の関係に基づく請求などに関しては、自己破産により支払いを免れることができるとするのは、社会通念上良くないと考えられているからです。
(3) 免責不許可事由がないこと
免責不許可事由とは、破産法252条に定めがある、免責を許可しない事由のことです。
代表例は、ギャンブルや浪費による借金ですが、他にも以下のものがあります。
- 債権者を害する目的での財産隠しや財産の損壊、不当に価値を減少させる行為
- 特定の債権者にだけ優先して弁済すること
- 著しく不利益な条件での債務負担、信用取引で著しく不利な条件での商品の買い入れや処分をする行為
- 詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと
- 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造すること
- 虚偽の債権者名簿の提出
- 破産手続で裁判所が行う調査で、説明を拒んだり、嘘の説明をしたりすること
- 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害する行為
- 過去7年以内に免責許可の申立てをしていること
賭博や浪費が理由の借金のほかは、主に、自己破産手続に際して禁じられた行為をしたことが免責不許可事由に当たります。
自己破産が難しいのはどういう場合か?
自己破産が難しい場合とは、主に(1) 非免責債権が多い場合、(2)免責不許可事由がある場合、(3)自己破産手続中資格制限がある職種の場合、の3つがあります。今、手元にお金が無くても、法律事務所の積立て制度を利用したり、法テラスを利用したりすることによって自己破産手続きを進めることが可能です。
(1) 非免責債権が多い場合
非免責債権が主な負担となっている場合は、自己破産をしてもあまり意味がないため、役所に相談したり、生活保護の受給を検討したりするなど、別の手段を考える必要があります。
(2)免責不許可事由がある場合
免責不許可事由は、大きく以下の3つに分類できます。
①自己破産手続のルールに反する行為
②賭博や浪費による借金
③前回の免責申立てから7年経っていないこと
①については、主に専門家のアドバイスを受けつつ、正直に、真摯に手続きを行えば、免責不許可事由にあたる行為をしてしまうことはないでしょう。
②については、「手続き的なルールは今から守ればいいけど、過去のギャンブルや浪費は取り消すことはできないじゃないか」とお考えになることでしょう。しかし、この場合でも、「裁量免責」により、実際には多くの人が免責を受けています。
裁量免責とは、免責不許可事由に当たる場合であっても、裁判所が裁量により免責を認める制度のことです。
ただし、賭博や浪費による借金で、裁量免責を求める場合は、裁判所が事情を詳しく調査する必要があるため、免責不許可事由がない自己破産よりも、手続きに時間や費用がかかる可能性があることには注意が必要です。
③については、債務者が再度破産手続に至った事情や置かれた状況によっては、7年経たなくとも自己破産ができる可能性があります。しかし、任意整理や小規模個人再生など他の手段を検討することになるでしょう。
(3)自己破産手続中資格制限がある職種の場合
自己破産をすると、手続中は特定の職業につけなくなることがあります。警備員、生命保険の外交員、貸金業や建築士、不動産鑑定士などで、これらの職業には、破産手続開始決定から免責を受けるまでの間、仕事をすることができません。
勤め先に申し出て、自己破産中は他の仕事を担当させてもらうことができれば良いのですが、そうした配慮や配置換えが難しい場合、自己破産以外の債務整理を検討したほうが良いでしょう。
※現在、自己破産をする費用が手元に無くても手続きできるのか?
「自己破産をしたくても今は手続費用がない」という場合でも、自己破産は可能です。自己破産は、本当に経済的に困っている人のための制度ですので、法律事務所によっては費用は分割払いを認めてくれる場合が多いでしょう。
・法律事務所の積み立て
弁護士に正式に自己破産を依頼すると、各債権者に「受任通知」が発せられ、その後、債権者は直接債務者に対して取立てや連絡ができなくなります。借金の返済を停止しても督促が来なくなりますので、それ以降は、借金の返済にあてていたお金を、弁護士費用等への積み立てに当てることができます。
・予納金の分割払い
また、裁判所費用(管財事件の場合)については、分割で納めることができる場合があります。東京地方裁判所の場合は4回までの分割が認められる可能性があります。
・法テラスの民事法律扶助制度
この他にも、「日本司法支援センター(法テラス)」という、国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所で、「民事法律扶助業務」という費用の立て替え制度を利用することができます。
これは、経済的に困っている方などが法的トラブルにあった際、弁護士や司法書士の費用等の立替えを行う制度です。これを利用すると、その後は、原則として、毎月5000円〜1万円を返還することになります。
このような各種制度の活用により、お金が無い方でも自己破産ができるよう配慮されています。
自己破産ができるかどうか不安な場合はどうすべきか
自己破産が可能か、判断に迷う場合、まずは無料の法律相談を利用して、債務整理が得意な弁護士に相談されると良いでしょう。
自己破産しかないと思い込んでいても、事情によっては他の債務整理が可能な場合があります。マイホームなどの財産を手放したり、保証人に迷惑をかけたりせずに済むかもしれません。
専門家と検討の上、自己破産が最適という結論になった場合でも、具体的なご自身の状況に即して、免責を受けるための指導やアドバイスを受けられますので、弁護士に依頼して行うほうが安心です。
自己破産の場合、近年では多くの法律事務所が無料で相談を受けつけていますので、費用のことは気にせずに、まずはお気軽に相談されることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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