自己破産をしたからといって所有する財産が裁判所から差し押さえを受けることはありません。ただし,原則として所有する財産を換価し債権者に平等に配当しなければなりません。
自己破産における差し押さえとは
破産管財人が処分対象とするのは、「市場に売却した場合の価値が20万円を超える財産」であり、価値が20万円以下の財産は、原則として処分の対象になりません。生活に必要な家電などの家財道具、20万円を下回るゲームなどの娯楽用品は、自己破産手続開始決定後も引き続き手元に置いておくことができます(※1)。
持ち家は、通常は市場価値が20万円を超えるので手放さなくてはなりませんが、賃貸住宅の場合や、家が破産者以外の家族の名義になっている場合は、引き続き住み続けることができます。
目次
※1 「価値が20万円」の基準
現在は、多くの地方裁判所で、処分対象となる財産の価値が20万円以上とされていますが、裁判所の規定や裁判官の判断によってはこれと異なるケースがあります。ご自身がお住まいになっている地域を管轄する地方裁判所の運用に関しては、詳しくは法律事務所の無料相談等でお尋ねください。
自己破産した場合、処分の対象となる財産
破産管財人が換価処分の対象とするのは、主に以下の財産です。
(1)不動産(土地、建物)
(2)20万円以上の預貯金
(3)自動車、バイク
(4)株式や手形小切手などの有価証券
(5)生命保険の解約返戻金
(6)退職金
(7)その他、20万円以上の価値がある貴金属やブランド品、美術品など
自己破産の手続きには二つの段階があり、「破産手続」と「免責」に分かれます。
(1) 「破産手続」…破産管財人が破産者の財産を換価処分し債権者に配当する
(2)「免責」…破産手続後に残った借金を免除する
このうち、主に(1)の手続きに必要なため、裁判所から破産管財人が選任されます。破産管財人は破産事件に詳しい弁護士が選ばれます。また、換価処分の対象となる財産のことを法律上「破産財団」と呼んでいます。
(1)不動産(土地、建物)
破産者名義の持ち家は、通常、価格が20万円を超えるため、破産管財人による換価処分の対象となります。住宅ローンが残っている場合と、ローンを完済している場合では取り扱いが異なりますが、いずれにせよ手放さなくてはなりません。
【住宅ローンが残っている場合】
住宅ローン返済中の場合は、自己破産手続をとることにより、残額の借金を返済しなくてよくなります。ただし、破産手続開始後はローンの支払いがストップするため、担保となっている家は手放さなくてはなりません。
最終的にはローン会社が競売にかけますが、通常は、まず破産申立を依頼した弁護士に相談し申立前に任意売却をするか、もしくは破産申立後、破産管財人が任意売却を試みます。
【住宅ローンを完済している場合】
住宅ローンを完済している場合、まずは、その住宅を売却したら借金を返済できる可能性がありますので住宅の価値を査定する必要があります。売却して得たお金で借金を完済できるのであれば自己破産する必要はありませんし、すべての債権者に返済できなかった場合でも任意整理で解決できる可能性もありますから弁護士に相談するのがいいでしょう。
【持ち家が債権者に差し押さえられている場合】
自己破産前に債権者から差し押さえを受けていた場合、自己破産の手続きをしても債権者は差し押さえをストップしてくれません。いずれは破産管財人による処分の対象となり、手放さざるをえなくなります。
(2)20万円以上の預貯金
通常、ゆうちょ銀行の口座に預けたお金のことを貯金、それ以外の銀行口座や信用金庫に預けることを預金と言います。複数口座がある場合は破産開始決定時の残高の総額が20万円を超えると、全ての口座が換価の対象になりますので注意が必要です。
(3)自動車、バイク
自動車やバイクについては、ローンを完済しており、かつ、中古車としての価値が20万円以上のものについては処分の対象となります。ただし、法定耐用年数を超えている場合は、20万円未満であると判断され、手元に残せるケースがあります。
【法定耐用年数(新車を購入した場合)】
普通自動車…6年
軽自動車…4年
バイク…3年
一般的な自動車やバイクの場合、20万円以下の価値として手元に残せるケースが多いでしょう。ただし、人気車種や高級車、特殊な車両などの場合、法定耐用年数を過ぎていても処分対象となることがあります。
【ローンが残っている場合】
ローンを支払い中の場合は、自己破産手続をとることにより、残りのローンを返済しなくてよくなります。ただし、カーローンやバイクのローンの場合、契約時に「所有権留保特約」がついており、車やバイクの所有権がローン会社に残っていることがあります。この場合、自己破産手続をとることによりローンの返済が止まるため、ローン会社により車やバイクが引き上げられてしまいます。
近年は、ローンの金額や購入者の年収等の状況によっては、所有権留保特約を付けない場合もあるので、今一度契約書をご確認ください。
(4)株式や手形小切手などの有価証券
株式や国債、小切手などは、通常は生活に必要な財産とは言えないため、価格に関係なく処分対象となることがあります。
(5)生命保険
解約返戻金がある生命保険、学資保険、傷害保険や自動車保険などについては、解約返戻金の合計金額が20万円以上の場合は、処分の対象になります。
解約返戻金とは、契約を解除した場合に保険会社等から受け取れるお金のことで、処分対象となった場合、当該保険等は解約しなくてはなりません。
ただし、生命保険等であっても、掛け捨て型で解約返戻金がないものについては、処分対象にはならず、契約を続けることができます。
(6)退職金
勤め先に退職金の規定がある場合、退職金の一部が処分の対象になります。具体的には、退職の時期や自己破産手続開始決定のタイミングによって処分される金額が異なります。勤め先に退職金の規定がない場合は、処分対象にはなりません。
【既に退職し、退職金を受け取っている場合】
受け取った退職金は現金として、銀行等に預けている場合は預貯金として扱われます。現金は99万円以上ある場合は、99万円を超えた部分が処分対象に、預貯金は持っている全ての口座の合計が20万円以上の場合は、口座に残っている全ての金額が処分の対象になります。
【退職予定で、退職金を受け取っていない場合】
近々退職する場合、退職金見込み金額の4分の1が処分対象となります。例えば、退職金が600万円なら、150万円が破産財団に組み入れられることになります。
ただし、退職金見込額が80万円以下の場合は、4分の1にすると20万円以下となるため、退職金全額を受け取ることができます。
【退職予定がない場合】
退職する予定がなくても、仮に破産開始決定時に退職し、支給される退職金があった場合(退職金見込額)、将来支給されるかどうか等の不確実性を考慮してその退職金見込額の8分の1相当額が財団を構成するとされます。
退職金見込額が360万円なら、45万円が破産財団に組み入れられることになります。
ただし、退職金見込額が160万円以下の場合、その8分の1にすると20万円以下なので処分の対象にはなりません.
(7)その他、20万円以上の価値がある貴金属やブランド品、美術品など
金や銀、プラチナの装飾品やブランド物のバッグ、美術品や骨とう品は、生活に必要なものとはみなされず、換価処分の対象になる可能性が高くなります。ただし、査定価格が20万円を下回るものについては、処分されない場合もあります。
処分の対象とならない財産
主に99万円以下の現金と合計20万円以下の預貯金、生活に必要な家財道具やパソコン、企業年金や公的年金、などは「自由財産」として差し押さえの対象になりません。また、破産手続開始決定後に取得した給与やボーナス、親の遺産などの財産は全額取得できます。また、同居していても家族の財産は処分されません。
(1)自己破産手続前に取得した財産
①99万円以下の現金と合計20万円以下の預貯金
破産法の規定によれば、差し押さえ禁止財産として、99万円以下の現金は破産財団に属さず、手元に残すことができると定められています。また、すべての銀行や信用金庫の口座に残っている預貯金の合計が20万円以下の場合も、手元に残すことができます。
②生活に必要な家財道具やパソコン
洗濯機、掃除機、ベッドなどの生活道具は手元に残せます。テレビやパソコンなどの高価な家電は、1台のみ残すことができるという運用の裁判所もあります。
③企業年金や公的年金
保険会社と契約する個人年金ではなく、企業年金や公的年金の場合は処分の対象外となり、自己破産しても全額受け取ることができます。
④ ペットなどの買い手がつかない財産
ペットは成獣になると買い手がつきづらく、世話が必要など管理に手間もかかるため、破産管財人から処分対象から外されるのが一般的です。また、山奥の土地やマニアックな趣味の品物など、買い手がつきにくい財産も処分対象から外されます。
(2)破産手続開始決定後に取得した財産
破産手続開始決定以後に取得した財産については、新得財産となり、給与、ボーナス、親からの遺産相続などを問わず、すべての財産や金銭を受け取ることができます。
(3)家族の財産
同居している家族であっても、家族名義の財産は処分対象にはなりません。配偶者や子供、親の名義の財産は影響を受けずに済みます。
ただし、破産管財人は自己破産の2年前からの財産の動きを調査するので、自分名義の財産を家族名義に変更して財産隠しをしてもバレてしまいます。
財産がない場合はどうなる?
持ち家に住んでおらず、差し押さえるべき財産が特にない場合で、借金の理由等にも問題がない場合は、「同時廃止」という簡易でスピーディーな手続きとなります。
同時廃止は、財産の処分が必要ないと判断された場合にとられる手続きで、破産管財人が選任されません。そのため、裁判所の手続き費用が安く済みます。現実には、多くの自己破産手続において、同時廃止手続がとられています。
財産の処分が必要である場合や、財産がなくとも、裁判所が詳しく調査するべき事情があるケースについては、破産管財人が選任されます。この手続きを「管財事件」と言います。
自己破産すると家に入れなくなる?
破産管財人によって家が処分され、新しい買い手が見つかると、退去を求められます。逆に言うと、買い手が見つかるまでは、家に住み続けることができます。自己破産したからと言って、直ちに家を出ていかなくてはならないわけではありません。
家は、買い手がすぐ見つかるケースとなかなか見つからないケースがあり、破産手続開始決定後、どのくらい長く住んでいられるかはケースバイケースです。すぐに買い手がつけば早く退去しなればなりませんし、なかなか買い手がつかなければ長く住んでいられます。
任意売却にしろ、競売にしろ、家を売るのには数か月の期間がかかります。その間に賃貸住宅など新しい住みかを見つけ、引っ越しの支度を整えましょう。
財産の処分を避けたい場合はどうしたら良い?
住宅や親の形見の骨とう品など、どうしても残しておきたい財産がある場合は、任意整理や個人再生と言った自己破産以外の手続きを選択することで、借金の負担を減らしながら財産を維持することができます。
任意整理は、弁護士が私的に債権者と交渉して利息のカットや借金の返済計画のリスケジュールを行います。借金の元本は減らせないため、比較的借金負担が軽い人向けの手続きです。
個人再生は、裁判所を通して借金総額を5分の1程度に大幅に減額します。住宅ローン付きの家を残せ、財産を処分されることもありません。ただし、手続きは手間がかかり、期間も1年以上かかることがあります。
詳しくは、法律事務所の無料相談を利用して、ご自身の状況にあった手続きを選択されることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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