過払い金請求の時効は原則として10年ですが、2020年4月1日以降に借金を完済している場合は5年で時効にかかることがあります。気になる過払い金の時効について、時効成立の条件や、例外的に時効が伸びる「一連と分断」取引、業者の不法行為についても解説します。時効が差し迫っているときの対処法や、おすすめの依頼先についてもまとめました。
目次
過払い金は時効により消滅する
過払い金の請求権は、原則として、取引終了から10年経つと、時効で消滅します。ただし、民法改正後の2020年4月1日以降、消滅時効の定めは次のように変わりました。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
この期限が過ぎてしまうと、多くのケースでは、過払い金を請求することはできなくなります。そのため、過払い金が発生している場合は、早めに請求を行うことをお勧めします。
過払い金請求とは、過去に借金を返済していて、その利率が利息制限法の上限金利を超えていた場合に、貸金業者等に支払いすぎた分の利息を返すよう求めることをいいます。利息制限法の上限金利を超える金利を「グレーゾーン金利」と言います。過払い金は、本来は業者が受け取っていいお金ではなく、法律ではこれを不当利得と呼び、不当利得返還請求権の時効は民法で定められています。
2010年6月17日の法改正前に消費者金融から借金をしていたり、クレジットカードのキャッシングをしていたりした人は、過払い金が発生している可能性があります。
過払い金の時効が成立する条件とは
過払い金の不当利得返還請求権の消滅時効については、2020年4月1日の民法改正前と後で、時効成立の条件が違ってきます。ちょっと面倒なことになっていますが、2020年3月31日以前に借金を完済していた場合は、「借金を完済した日から10年」で時効が消滅します。
【2020年3月31日以前に借金を完済していた場合】
(1)借金を完済した日から10年経っていること
過払い金の時効がいつスタートするかは、2009年1月22日の最高裁判決で、取引の終了した日から10年という判決が出ています。取引が終了した日とは、一般的には、借金を完済した日がこれに当たります。
- 時効になってしまう例
例えば、借金をした日が2005年1月、完済した日が2010年1月であれば、2020年1月に消滅時効が成立します。その後、その業者と取引がない限り、今から過払い金を請求するのは難しくなります。
- 時効にならない例
契約した日が2005年1月であっても、完済したのが2013年1月であれば、時効成立は2023年1月ですので、過払い金を請求することができます。
完済したのがいつなのか忘れてしまい、レシートや記録が残っていなくとも、借りていた業者に取引履歴を取り寄せることができます。
【2020年4月1日以降に借金を完済した、あるいは、現在も返済中の場合】
2020年4月に改正民法が施行され、これ以降に借金を完済した、あるいは現在も返済中の場合は、改正後の民法が適用されます。改正後の民法では、(1)「借金を完済した日から10年」という要件のほかに、もう一つ要件が加わります。
(2)過払い金請求権があると知った時から5年経ったこと
改正後民法では、新たに、「自分に過払い金を請求できる権利があることを知った時から5年」という要件が加わりました。つまり、2020年5月に借金を完済し、その直後に、自分に過払い金請求権があることを知った人の時効成立は、2025年5月となります。
民法はまだ改正されて間もないので、2021年9月現在、(2)の要件で時効にかかってしまう人はいませんが、時効のルールが改正前よりも縮んでしまっていることには注意が必要です。自分に過払い金があるとわかったら、早めに過払い金請求をされることをお勧めします。
時効が成立しているかどうかを調べる方法
時効が成立しているかどうかは、各貸金業者やカード会社に問い合わせて取引履歴を取り寄せることにより、調べることができます。お金を借りた正確な日時や金額、完済日などが分からなくても、取引履歴には正確なことが書いていますので、過払い金請求は可能です。
【お金を借りた先を覚えている場合】
消費者金融やカード会社には、取引している個人から取引履歴の開示請求を受けた場合、開示しなければならないという決まりがあります。各企業のホームページから、電話や問い合わせフォームなどで取引履歴が欲しいと伝えましょう。理由を聞かれることがありますが、「過去の取引を確認したい」という程度の受け答えで大丈夫です。
注意が必要なのは、お金を貸した側としてはできるだけ時効を成立させたいので、個人で取引履歴の開示を請求すると、取引履歴が手元に届くタイミングが遅れるケースがあることです。弁護士や司法書士などの法律の専門家に依頼して、代わりに請求してもらうと、比較的早く取り寄せることができます。
そのため、過払い金の時効が迫っていると思われる場合は、できるだけ早く法律家に依頼したほうが良いでしょう。
【お金を借りた先を覚えていない場合】
お金を借りた企業名を覚えていなくても、信用情報機関に情報開示を請求することで、取引履歴を確認できます。信用情報機関とは、個人のお金の貸し借りの記録を管理する組織のことで、日本に3つあります。
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)https://www.cic.co.jp/
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)https://www.jicc.co.jp/
この3団体に情報開示請求を行うことで、過去にした借金の履歴が分かることがあります。
時効がもうすぐの場合、どうすれば良いか?
取引履歴を調べた結果、時効が目前に迫っている場合は、できるだけ早く相手方の企業に過払い金返還請求書を送りましょう。過払い金の時効は、請求手続きを開始することで止めることができます。
過払い金請求書とは
正確な過払い金の金額と、過払い金の請求をすることを明記した文章で、貸金業者が過払い金請求書を受け取った時点で、6か月間、時効が停止します。
過払い金請求書に厳密な形式はないのですが、
- 当事者が誰か
- いつからいつまでお金を借りたか
- 正確な過払い金額はいくらか
- 過払い金を請求したい旨
- 過払い金の振り込み先
- 振り込まない場合は法的手段に出る
といった要素を盛り込みます。
また、確実な証拠となるよう、文書は内容証明郵便で送付します。
過払い金請求書を書く際に最も問題になるのは、「正確な過払い金の額はいくらか」という点です。不正確な金額を書いてしまうと後で不利になることがあります。
過払い金の計算は、「引き直し計算」と言い、個人でこの計算を行うためのソフトも無料で出回っています。しかしながら、取引の内容によっては過払い金額の算定に法律的な判断が必要なケースもあるので、正確を期すなら弁護士等に依頼されたほうがいいでしょう。特に、以下のケースは、専門家に依頼されることを強くお勧めします。
- 過払い金額が高額な場合
- 複数の業者に過払い金がある場合
- 同じ業者と繰り返し、何度も借金の借り入れを行っていた場合
なお、それでも貸金業者が過払い金請求に応じない場合や、業者との話し合いが決裂した場合は、裁判所に民事訴訟の申し立てを行います。いったん裁判を起こせば、時効は完全にリセットされます。その後、判決が出てから10年間、過払い金債権は時効にかかりません。
同じ貸金業者と連続的に取引があると時効が止まる?
同じ貸金業者と複数回借金の貸し借りをしていた場合や、クレジットカードのキャッシングを繰り返し利用しては返済していた場合、一つの借金が10年前に完済していたとしても、全体を一つの取引とみなして、過去の過払い金の請求が可能になることがあります。
例えば、(1)2000年10月にお金を借り、2010年10月に全て返済、(2)2011年1月に再び借金をして、2015年1月に完済した、という場合、1回目と2回目が全体として「一連の取引」と認められれば、1回目・2回目両方の借金の過払い金も返ってきます。
ただし、(1)(2)が一連の取引と認められず、別々の取引と認められた場合は、(1)(2)両方とも過払い金を請求することはできません。(1)は2020年10月に時効が成立しており、(2)は法改正が行われた後の借金であり、過払い金が発生していない可能性が非常に高いからです。
このように、一連の取引と認められるか、別々の取引となってしまうかで、取り戻せる過払い金の有無や額が大きく変わってきます。これに関しては法律的な判断が必要になりますので、過去にこのような取引をされていた方は、弁護士等の法律の専門家へのご依頼を強くお勧めします。
消費者金融の場合
一般的には、1回目の取引と2回目の取引が1年以内であれば、一連の取引と認められる可能性が高まります。しかし、途中で契約内容の更新があった場合は、分断とされることがあります。
クレジットカードの場合
クレジットカードのキャッシングを定期的に利用しては返済していた場合、一連の取引と認められやすくなります。ただし、一回払いよりもリボ払いのほうが一連の取引と認められやすいなど、ケースバイケースです。
高額の過払い金が発生しているケースとは
「過去に高額の借金をしていた」「長期にわたって返済をしていた」「リボ払いを利用していた」この三つの条件の1つ以上に当てはまる場合、高額の過払い金が発生している可能性が高いです。時効が成立してしまうと非常にもったいないので、早めの請求をお勧めします。
リボ払い
特に、見落としがちなのは、「リボ払い」です。毎月定額を返済すればいいので負担が軽く、払いやすく感じますが、返済が長期化して、支払う利息額が増えるというデメリットも持っています。過去に、カードローンやクレジットカードのキャッシングをリボ払いで利用していた方には、高額の過払い金が発生しているケースがあります。
なお、リボ払いであっても、クレジットカードのショッピングに関しては、過払い金請求の対象とはなりません。ショッピングは法律上「立替金」と言う扱いになっていて、借金ではないとされているからです。
過払い金の時効が気になる場合は専門家へ相談を
時効が迫っている場合は、弁護士や司法書士などの法律のプロに依頼したほうが、スピーディーかつ正確に手続きを行うことができ、業者に時間稼ぎをされる恐れも少なくなります。
過払い金請求の場合、貸金業者はできるだけ時効を成立させたがるので、消費者が個人で請求を行うと、取引履歴の取り寄せなどの手続きが遅れることがあります。また、利息制限法引き直し計算や、過払い金請求書の作成は、慣れていない素人には時間がかかり、正確さにも不安が残ります。しかし、法律家であれば迅速かつ正確にこれらの手続きを行うことができます。
また、弁護士や司法書士に依頼する際は、債務整理や過払い金請求の実績が多い、手続きに慣れた専門家に依頼するとよいでしょう。その分、素早く対応してくれるはずです。
また、高額の過払い金が発生している可能性がある場合は、司法書士ではなく弁護士に依頼されたほうが確実です。司法書士も過払い金請求手続きができますが、過払い金の金額が140万円以下のケースしか取り扱うことができません。一方、弁護士は、過払い金の金額にかかわらず依頼を受けることができます。
司法書士に依頼した結果、引き直し計算で過払い金の額が140万円を超えていた場合は、弁護士に依頼しなおさなくてはならず、時効が迫っている場合は痛いタイムロスになります。
他にも、訴訟が簡易裁判所では決着せず、地方裁判所までもつれ込んだ場合は、司法書士では代理人になれませんが、弁護士は代理人になることができます。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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