過払い金請求をしても、過去に完済済みの借金だった場合は、ブラックリストに載ることはありません。しかし、借金を現在も返済中で、借金の残額が過払い金の額よりも多い場合は、「任意整理」としてブラックリストに載ります。過払い金請求でブラックリストに載らない方法や、注意点についてまとめました。
目次
過払い金返還請求について簡単に解説
過払い金請求とは、過去に返済した借金のうち、利息制限法の定めよりも払いすぎた利息がある場合に、返金を求めることです。
借金の利息は、「利息制限法」と「出資法」という法律にて、上限が設けられています。かつては、この二つの法律の上限利息には差があり、利息制限法は15%~20%と言う利率で、出資法は29.2%となっていました。利息制限法違反の高金利であるものの、出資法の範囲内の金利であることを「グレーゾーン金利」と言い、貸金業者やクレジットカード会社が、グレーゾーン金利でお金を貸しても、有効に受け取れていました。
グレーゾーン金利でお金を貸し付けていたのは、主に、消費者金融と、クレジットカードのキャッシング枠です。※クレジットカードのショッピング枠には、法律上、過払い金は発生しません。
しかし、2006年1月の最高裁判決で、事実上、貸金業者等がグレーゾーン金利の利息を受け取ることを無効とする判断が下されました。それ以降、グレーゾーン金利でお金を借りた消費者は、業者に請求して過払い金を返すよう請求できるようになりました。
グレーゾーン金利は2010年6月17日に法改正により消滅しています。これ以降に、新たに契約した借金・クレジットカードについては、過払い金は発生していません。
しかしながら、2010年6月17日以前から借金やキャッシングをしていた場合には、過払い金が発生している可能性があります。
ブラックリストについて簡単に解説
ブラックリストとは、「信用情報機関に事故情報が載ってしまうこと」を指す俗語です。「ブラックリスト」という記録が存在するのではありません。
信用情報機関とは、個人のお金の貸し借りのデータを保管する組織のことで、日本には「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」「株式会社シー・アイ・シー(CIC)」「株式会社日本信用情報機構(JICC)」の3つがあります。金融機関や貸金業者は、この信用情報機関の記録を参考に、融資を求めてきた個人に支払い能力があるかを判断します。分割払いや、クレジットカードの利用も同様に、審査の際、信用情報機関の記録を参照します。
「事故情報」とは、審査に落ちる可能性があるブラック情報で、任意整理、個人再生、自己破産と言った債務整理や、返済の滞納などが事故情報に当たります。事故情報は5~10年の間記録され、記録が残っている期間は新規の借り入れ等をしようとしても、審査に落ちる可能性が高いです。また、クレジットカードの新規契約や更新も難しくなります。これを俗に「ブラックリスト入り」と言います。
過払い金返還請求をするとブラックリストに載るのか?
現在は、過払い金請求をしたことは、信用情報機関の記録には残らないので、原則として、ブラックリスト入りすることはありません。過払い金請求をしても、信用情報に傷がつくことはありませんので安心してください。
しかし、過払い金返還請求とは、消費者が当初の約束通りに借金を返済しており、かつ、適切な法定金利よりも余計に支払いすぎた分について、返還を求めることです。ちゃんと返済をしているのに、「契約見直し」として記録を残したり、消費者に不利益な扱いをしたりすることは、不合理と言えます。
そもそも、利息制限法を超えた違法な高金利を設定したのは貸金業者であり、払いすぎた利息分を返すよう請求するのは消費者の正当な権利です。そのため、金融庁が、過払い金返還請求については信用情報に登録してはならないという方針を出し、各情報機関に対し指導を行いました。
しかし、例外として、借金の返済中に過払い金返還請求を行った場合、ブラックリストに載る可能性があります。
過払い金返還請求をしてブラックリストに載る理由と条件
過払い金がある業者について、借金を現在も返済中の場合、過払い金請求を行うと、借金の残額が多い場合はブラックリストに載る可能性があります。
【ブラックリストに載る条件】
- 借金を返済中に過払い金請求を行った
- 借金の残額が発生した過払い金の額より多い
【ブラックリストに載る理由】
過払い金で現在借入途中の残債務と相殺しても借金が残ってしまった場合、「任意整理」という、債務整理の一種の扱いとなるから
債務整理とは
債務整理は、借金問題に困っている人が、弁護士等に依頼して、借金の減免やリスケジュールなどをしてもらう法的な手続きです。任意整理は、債務整理の一種で、弁護士等に金融機関や貸金業者と私的に交渉し、借金の利息や遅延損害金のカットをしてもらう手続きです。
債務整理をすると借金が減り、あるいはなくなりますが、代わりに信用情報機関に5~10年程度、債務整理の事実が事故情報として記載されてしまい、その期間は新たな借り入れが難しくなります。
過払い金請求が「任意整理」となる仕組み
現在、借金がある貸金業者等に過払い金請求を行う場合、請求をうけた業者は「相殺」という処理を行います。
相殺とは、同じ種類の債権を双方が持っている場合、同じ額だけ差し引いて消滅させる行為です。
例えば、借金の残額が200万円で、過払い金が150万円だった場合は、本来は、借主は200万円を業者に返済し、業者は150万円を過払い金として借主に支払わなくてはなりません。
ですが、「相殺」を使うと、業者は借金の残額200万円から、借主に支払うべき過払い金150万円を差し引いて、残り50万円の借金を返済するよう借主に求めてきます。
こうした処理は、貸金業者側としては「相手からの交渉を受けて借金を減額した」という扱いになり、「任意整理」として信用情報機関に記録されてしまうのです。
【注意】「借金」だけではなく「クレジットカードのショッピング枠の支払い」も相殺対象となる
クレジットカードのキャッシング枠利用で発生した過払い金について、カード会社に請求する場合は、キャッシング枠だけではなく、ショッピング枠の支払いについても相殺の対象となりますので注意が必要です。
過払い金が発生するのはキャッシング枠だけなのに、相殺対象となると、キャッシングもショッピングも両方対象となるのは、不思議な話ですね。
過払い金がキャッシング枠だけに発生するのは、キャッシングとショッピングでは法律上の扱いが異なり、キャッシングは「貸付金」、ショッピングは「立替金」という分類になるからです。そのため、立替金に発生する手数料は利息には当たらないとされています。
しかしながら、貸付金であっても立替金であっても、「金銭債権」であることには変わりはありません。そのため、企業は、両方とも過払い金と相殺することが可能です。
現在使っているクレジットカードの、キャッシング枠の未払い分と、ショッピング枠の未払い分の両方を足した合計額が、過払い金の額を上回っている場合は、「任意整理」扱いになって、ブラック入りしてしまいます。
例えば、過払い金の額が30万円で、現在、キャッシング枠で借り入れている金額が20万円だったとしても、ショッピング枠利用で30万円の未払いがある場合、相殺されて「任意整理」扱いとなります。
過払い金返還請求でブラックリストを回避する方法
【1】該当貸金業者への借金を完済する
過払い金請求を考えている業者に対し、借金の残額がゼロであれば、ブラックリストに載ることはありません。例えば、100万円の過払い金がある業者に、10万円の借金をしているのであれば、借金10万円を工面して先に完済し、そののちに過払い金100万円を請求されることをお勧めします。
【2】現在、借金がない業者にだけ過払い金を請求する
複数の貸金業者やカード会社に過払い金がある場合は、現在借金をしていない業者に対してのみ、過払い金を請求することも可能です。
返済中でも過払い金で借金返済完了した場合はブラックリストに載らない?
借金の残額よりも過払い金の額が多く、過払い金で借金を完済できる場合、ブラックリストに載ることはありません。
例えば、借金の残額が80万円で、過払い金の額が100万円だった場合、業者が相殺を行うと、借金は全てなくなります。業者は、差し引き20万円分の過払い金を支払うことになります。このような場合は、「借金の残額を過払い金で完済した」という扱いになりますので、任意整理にはならず、信用情報機関にブラック情報として記録が残ることはありません。
クレジットカード会社に過払い金返還請求をした場合のカード利用は大丈夫?
クレジットカード会社に過払い金請求を行うと、以後、そのカードは使えなくなる可能性が高いので注意してください。
完済済みの借金について過払い金請求をしてもブラック入りはしないので、他のクレジットカードを持ったり使用したりすることについては何の問題もありません。しかし、カード会社は信用情報機関への登録とは別に、社外秘の顧客リストを持っており、過払い金請求をするとこのリストにネガティブ情報として記録されるため、当該企業や、グループ企業に関しては系列企業についても、クレジットカードの利用ができなくなることがあります。
社内ブラック入りしたカードは、キャッシング枠の利用だけではなく、ショッピング枠の利用も不可能になります。
そのため、公共料金などをクレジットカードから引き落としていた場合は、他のカードから引き落とすよう手続きをするか、別の支払い方法に変更する必要があります。
信用情報機関のブラックリスト入りは一定期間経てば記録が消え、以前のように借金ができるようになります。しかし、社内ブラックリスト入りの場合はそのような決まりはないので、一度過払い金請求を行うと、その後もずっとその会社や系列会社のカードが持てなくなる可能性がありますので注意してください。
ブラックリスト入りしても一定期間で記録は消える
万が一、ブラックリストに載ってしまい借金や分割払い、クレジットカードの利用ができなくなっても、5~10年経てば信用情報機関の記録は消え、それまでのように暮らせるようになります。
「ブラックリスト」という言葉の恐ろしさに、借金返済中の過払い金返還請求を戸惑われる方もいますが、借金に困っているときは、ブラックリスト入りのデメリットよりも、過払い金との相殺により借金が減るメリットの方がずっと大きいです。
信用情報機関の記録は厳しく管理されており、登録している企業であっても、支払い能力の審査という目的以外でみだりに見ることは禁止されています。そのため、ブラックリスト入りしたことをきっかけに、家族や友人に借金のことや過払い金について知られる恐れはありません
また、最近はクレジットカード以外にも、デビットカードやプリペイドカードと言った他の決済手段が豊富にあり、クレジットカードが使えなくても不便を感じることは少ないでしょう。
任意整理は債務整理の中でも、社会的影響が少ない手続きです。しかし、借金問題がさらに深刻化すると、任意整理ではなく、より社会的影響の大きい自己破産や個人再生が必要になることがあります。借金に困っている場合は、一人で悩まずに早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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