過払い金の時効は完済してから10年が原則ですが、時間が経っていても請求できるケースがあります。過払い金請求の時効が気になる方に、時効の存在について詳しく解説します。また、裁判で争いになる「一連と分断」についても併せて説明します。昔の借金も、時効だからと諦める前に、ご一読ください。
目次
過払い金の時効は10年
過払い金の請求権は、「取引終了時から」10年で時効により消滅します。この取引終了時、という点がポイントで、取引開始時点から10年が経過していたとしても、最後に借金を払い終わった日または借入した日から10年が経過していないのならば、過払い金を請求することができます。
この10年という期限は、法律で定められているので、完済から10年たった過払い金は原則として取り返すことができません。ただし、一部例外的に10年たっていても請求が可能なケースがあります。「一連の取引」や「業者の不法行為」があるケースです。これについては、のちに詳しく解説します。
時効まで余裕があっても、お金を借りた貸金業者が倒産してしまった場合、過払い金を回収することは難しくなります。近年は相次ぐ過払い金請求により、体力のない業者や経営状態が悪化している業者も増えています。過払い金が発生している可能性のある借金については、早めに専門家に相談されることをお勧めします。
※【2010年6月18日】から10年経ったら時効成立?
過払い金の発生源となったグレーゾーン金利は、2010年6月18日の法改正で撤廃されました。したがって、この日から10年で時効が成立すると考える人がいます。しかし、実際は「取引終了時から10年」で時効が完成しますので、時効の完成期はそれぞれ人の返済状況によって異なります。何年もかけて借金を返済している場合は、それだけ時効成立の時期も遅くなります。
過払い金は、かつては借金の利息の上限を定める2つの法律の規制に差があったことから発生していました。利息制限法の上限利息は20%、出資法の上限利息は29.2%となっており、多くの貸金業者は「利息制限法の制限を超えるが、出資法の制限の範囲内」で利息を取っていました。これはグレーゾーン金利と呼ばれていました。
2010年6月18日の法改正が関係してくるのは、時効ではなく、取引開始のタイミングです。2010年6月18日以降は、合法的な貸金業者はみな、利息制限法の範囲内で合法的にお金を貸しています。したがって、2010年6月18日以降に新たな借金の契約をした場合、過払い金は発生していないと考えられます。
2010年6月18日以前に取引を開始した借金であれば、過払い金が発生している場合がありますので、心当たりのある方はまずは専門家に相談してみましょう。
時効までの時間の計算方法
同一業者との借金が一回きりで、滞りなく返済していた場合は、時効の計算方法はシンプルです。例えば、2005年7月10日に借金をして、2015年7月9日に完済した場合、時効は完済から10年後の2025年7月9日となります。
また、2005年7月10日にした借金を現在もなお返済中である場合、時効が完成することはありません。
しかし、(1)借金を滞納している場合や、(2)同一業者から借金と返済を繰り返していた場合はもう少し複雑になります。
(1)借金を滞納している場合
途中で借金の支払いをやめてしまい、滞納が続いている場合は、「最後に返済した日」または「借り入れを行った日」から10年で時効が成立します。
(2) 同一業者から借金と返済を繰り返していた場合
同じ業者と複数回借金のやり取りを繰り返している場合、それが「一連の取引」とみなせるケースがあります。「一連の取引」であれば、そのうちの一部について完済が10年を過ぎてしまっていても、すべての取引について過払い金が請求でき、時効の成立が最後の借金の完済から10年となります。
過払い金請求は専門家を通さず一人でも行えますが、何度か完済・解約・再契約など複数の取引があった場合、過払い金の総額や時効の成立期日について法律上の問題が生じます。過払い金を確実に取り戻すためにも、専門家に依頼したほうが良いでしょう。
※いつからいつまで借金していたかわからない場合は?
貸金業者に問い合わせることで、過去の借金状況について取引履歴を取り寄せることができます。この取引履歴から過払い金や時効の成立について調査することができます。借金をした日付のわかる書類や契約書を保管している人は少ないですが、取引履歴の請求により多くの人が過払い金請求に成功しています。
一連と分断とは?
「一連の取引」とは、同一の業者と複数回にわたってやり取りをしていた場合、それぞれを個別の取引と考えるのではなく、全体をまとめて一つの取引と評価することです。裁判所が「一連の取引」と認めれば、一番最近の取引の最後の返済日を時効計算のスタート地点とすることができます。
他方で、「分断」とは、複数の取引を一連の取引と評価することができない場合に使われる言葉です。裁判所に「取引が分断されている」と判断されると、複数取引はそれぞれ独立した取引として扱われ、過払い金の額や時効が個別に計算されます。
グレーゾーン金利が撤廃されてから10年が経過した現在、時効が迫っている過払い金も多くなっています。そのため、複数の取引を「一連の取引」と評価してもらえたほうが、過払い金の請求者にとって有利です。「一連の取引」とみなされるためには、一般的には以下の条件に当てはまっている必要があります。
【複数の取引が一連の取引と認められる条件】
(1)契約番号が同じ
(2)完済してから次の借り入れまでの期間が365日以内
しかし、これらの条件に当てはまっている場合でも「分断」とみなされるケースもありますし、逆に当てはまらなくとも「一連の取引」とされる場合もあります。それぞれの契約の内容や条件、返済状況、裁判になった場合は裁判官によっても評価が分かれるポイントになります。途中で契約書の書き換えをしていた場合は、分断と認められる可能性が高くなります。
※クレジットカードのキャッシングは「一連の取引」になりやすい
消費者金融からの借金ではなく、クレジットカードのキャッシングによる過払い請求の場合、利用の期間が開いていても一連の取引と認められるケースが多いです。クレジットカードのキャッシングで過払い金の心当たりがある人は、古い取引でも一度調査をしてみるとよいでしよう。
一連と分断の過払い金の計算
一連と分断の考え方はやや複雑なので、具体的に借金の事例を想定して考えることで理解ができます。
【ケース1】2005年9月20日に最初の借金をして、まだ返済中の2007年7月10日に2回目の借金をした。最初の借金は2008年9月19日に完済し、2回目の借金は2015年7月9日に完済した。
→二つの取引が「一連の取引」とみなされれば、時効は、最後の完済日である2015年7月9日から10年後の2025年7月9日となる。
【ケース2】2005年1月20日に最初の借金をして、2007年1月19日に完済した。その10か月後、2007年11月20日に2回目の借金をして、2012年11月19日に完済した。
【A・契約内容が同じで、契約番号の変更もなかった場合】
→二つの取引が「一連の取引」とみなされれば、1回目の借金と2回目の借金が一つの取引となり、時効は、最後の完済日である2012年11月19日から10年後の2022年11月19日となる。
【B・2007年11月に契約書の変更を行い、契約番号も変わっていた場合】
→二つの取引が「分断」とみなされれば、最初の借金については2017年1月19日に時効が成立してしまっているので、2回目の借金についてのみ過払い金を請求できる。時効は、2回目の借金の完済時である2022年11月19日となる。
例えば、最初の借金に関して30万円の過払い金、2回目の借金に関して50万円の過払い金が発生していた場合、【A】の一連取引とみなされたケースでは合計80万円の過払い金を請求できるのに対し、【B】の分断とみなされたケースでは50万円のみ請求できることになります。
10年以上経過しても過払い金請求できるケースまとめ
完済から10年過ぎていても過払い金が請求できるケースについてまとめると、以下の通りです。
【1】借金を現在も返済中であること
借金を現在も返している場合は、完済する日まで時効はスタートしません。
【2】同一業者と複数取引があり、「一連の取引」に当てはまること
複数回にわたって同一の業者と取引をしていた場合、最新の取引の時効がまだ来ていなければ、古い過去の借金についても過払い金を請求できます。
時効期限の到来を止める方法
時効は、裁判上の請求または裁判外の請求を行うことでストップすることができます。完済から時間が経っている場合は、早めに請求を行って時効を止めてしまいましょう。
(1)裁判上の請求
裁判上の請求とは、裁判所を通した手続きにより、過払い金を業者に請求することです。以下の二つのやり方があります。
・訴訟の提起
正式に業者を相手取って裁判を起こすことをといい、「通常訴訟」と「少額訴訟」があります。
・支払督促の申し立て
裁判所を通じて貸金業者へ過払い金の支払い督促をしてもらう手続きです。
なお、支払督促に対し業者が2週間以内に異議を申したてると裁判に移行します。通常、支払督促を受け取った業者は異議を申し出るため、結局は裁判になることを覚悟しておく必要があります。
(2)裁判外の請求
貸金業者に過払い金請求書を送ると、最初の1回だけ、6か月間、時効の進行が止まります。この6か月以内に裁判上の請求を行えば、時効は完全にストップします。
裁判外の請求を行う際は「いつどんな内容で請求を行った」という証拠を残しておくことが大切ですので、内容証明郵便を使います。内容証明郵便は通常の郵便よりも料金が割高になりますが、業者側に「そんな書類は受け取った覚えはない」と主張されるのを防ぐことができます。
※取引履歴を取り寄せただけでは時効は止まらない
時効を止めるためには「私は業者に対して過払い金の返還を請求します」という意思表示を明確に行う必要があります。業者に問い合わせて取引履歴を取り寄せただけでは、実際に過払い金を請求するかどうかの意思表示とはならないので、時効は止まりません。
取引履歴は借金をした本人が問い合わせても取り寄せることができますが、送付までに数か月かかることがあります。専門家に依頼したほうがより早く取引履歴を手に入れることができます。時効が迫っているケースでは、取引履歴の開示が早いことは重要なメリットになります。
まとめ
完済から10年を経過しても過払い金請求ができるケースは少なくありません。しかし、「一連の取引」にしろ、「不法行為」にしろ、法律上の判断が絡んできます。そのため、法律知識のない人だけでの請求は困難です。これらの請求を考えている場合は、専門家に相談しましょう。多くの法律事務所が無料相談を受け付けており、複数の事務所に相談をすることも可能です。
取り戻せるはずの過払い金が時効により消滅してしまう前に、早めに相談されることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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