自己破産の際の職業制限と、職業制限の期間、制限の解除について解説します。職業制限の解除のことを「復権」と言います。自己破産すると一部の職業では資格を喪失します。しかし、手続きが終わり、免責許可の決定が確定したとき復権するため、2度とその仕事に就けないわけではありません。また、自己破産手続きによっては職業制限以外にも制限が発生することがあります。職業制限がある仕事をしている場合、どうすればいいかと言う疑問にもお答えします。
目次
自己破産者における法的な制限にはどういうものがあるか
裁判所に自己破産手続きを申し立てると、免責がおりるまでの3ヶ月~半年ほどの期間、弁護士や警備員などの一部の職業に就けなくなります。
また、手続きの種類によっては海外旅行や引っ越しの制限、郵便の秘密に制限がかかることがあります。これらの制約は、自己破産手続きをしている間だけ発生します。
無事に自己破産手続きが進み、免責許可の決定が降りれば、こうした制限は解除されます。
厳密にいうと、職業制限が解除されることを「復権」と呼び、「当然復権」と「申し立てによる復権」の2種類があります。それ以外の制限は、破産手続き終了と同時に当然に終了します。とはいえ、おおまかなイメージとしては「自己破産手続き中だけ、法律的な制限がある。しかし、免責許可決定が確定したら解除される」という理解で大丈夫です。
法律的な制限について、解除方法、復権のタイミングについて詳しく解説します。
自己破産者に制限のある職業や資格
自己破産による法的な制限の代表が、「制限職種」です。法律に定めがある一定の職業について、自己破産手続き中、仕事ができなくなります。弁護士や司法書士、不動産鑑定士などの、お金を扱う士業の資格のほか、身近な例では警備員や宅地建物取引主任者、生命保険の保険募集人などもあります。
制限職種には、大別して2種類があります。
①自己破産で当然に資格を失う職業
弁護士・公認会計士・税理士などの、お金を扱う可能性のある士業については、自己破産手続きをすると当然に資格を喪失します。また、警備員や公証人など、機密情報を扱う職業にも職業制限が多いです。
「資格を失う」と言っても、資格試験に合格したことが取り消しになるわけではなく、復権すればまた登録をし直して、以前の仕事をすることができます。
②手続きを経て資格を失う職業
保険募集人
生命保険を販売する資格の「保険募集人」は、資格試験に合格後、金融庁への登録が必要です。この保険募集人の資格は、法人の場合、破産すると登録が取り消されてしまいます。しかしながら、個人の場合、保険業法307条によると、「生命保険の募集人が破産したとき内閣総理大臣は、生命保険募集人の登録を取り消したり、6か月以内の業務停止を命じることができる」とあるだけで、取り消すかどうかは任意となっています。そのため、実際には多くの人が登録を取り消されずに済んでいますが、取り消される可能性があることには注意が必要です。
会社の取締役
会社の取締役は、自己破産すると会社との委任契約が終了し、退任となります。ただし、その後再任されることは禁止されていないので、まだ破産手続き中であっても直ちに取締役に復帰することは可能です。
※資格制限のない「士業」もある?
例えば、士業であっても「消防士」には自己破産による資格制限はありません。お金や機密情報を扱う仕事ではないからと考えられます。このように、制限がある仕事とない仕事があるので、ご自分の仕事が資格制限のある仕事かどうかは、「○○(ご自身の仕事) 職業制限」と言ったキーワードで検索されてみることをお勧めします。
もっとも、ネットの情報は不正確なケースもあります。資格制限は法律の条文に明記があるはずなので、まずは根拠の法律を検索してみて、本当に制限があるのかどうか裏を取ると良いでしょう。
また、自己破産を弁護士に依頼する際には、弁護士がその職種が制限職種かどうか調べてくれます。調査に自信がない、法文を見てもよくわからないという場合は、弁護士に相談されるとよいでしょう。
職業制限に引っかかる場合はどうしたらいい?
職業制限のある仕事で、自己破産をしたからと言って、会社側はただちに解雇してよいというわけではありません。債務整理をしたことを原因に会社をクビにすることは、不当解雇に当たる可能性があります。
①勤め先に相談する
職業制限がある仕事の場合は、正直に勤め先に相談するのが望ましいです。配置転換で、資格を必要としない仕事に就かせてもらえる可能性があります。
②自己破産以外の債務整理をする
様々な事情があって勤め先への相談が困難である場合は、任意整理や個人再生など、職業制限がない債務整理をする選択肢があります。自己破産と違って借金が帳消しになることはありませんが、法律上の制限を心配せずに借金負担を軽くできます。
職業制限以外の自己破産手続き中の制限とは?
自己破産の手続きには「同時廃止」と「管財事件」があり、管財事件となった場合は、手続き中、転居の制限や通信の秘密の制限が発生します。どちらの手続きになるかは裁判所が決定します。
同時廃止と管財事件
「同時廃止」は、財産もなく、免責不許可事由がない人向けの手続きです。この手続きになった場合、破産管財人は選任されず、職業制限以外の法的制限は発生しません。
他方、「管財事件」とは、裁判所により破産管財人が選任されて、財産の管理・処分・換価や、破産の経緯の調査などを行う手続きのことです。財産がある人や、浪費やギャンブルなどが原因の借金をした人などは、管財事件(少額管財)となるケースがあります。
管財事件の手続き中の制限
- 引っ越しをしたり、宿泊を伴う旅行をしたりする場合は、裁判所の許可を得る必要があります。
- 郵便物は全て破産管財人に転送され、中身を開封し確認されてから破産者に渡されます。
- 破産管財人に、破産に関し必要な説明をしたり、調査に協力したりする義務があります。
- 持っている重要な財産を、隠さずに開示しなければなりません。
これらの制限は、破産手続きが終了すると同時に当然に終了します。破産後もずっと制限があると誤解している人もいますが、そのようなことはないので安心してください。
自己破産における復権とは?
自己破産手続きをすることによって生じた職業制限が解除されることを「復権」といいます。一般的には、無事に免責許可の決定が降りれば、当然に復権となります。復権すれば制限職業の仕事を再開したり、新たに資格をとったりして制限職業に転職することも可能です。
なぜ職業制限が解除されることだけを「復権」と呼ぶかと言うと、厳密には、職業制限は、手続きが終わっても、当然に解除されるものではないからです。
【復権の仕組み】
自己破産という制度は、厳密にいうと、「破産手続き」と「免責」という二つの手続きに分けられます。
①破産手続き
破産者の財産を換価・処分し、債権者に配当する手続き
②免責
借金を帳消しにする手続き
このうち、管財事件における転居の制限や通信の秘密の制限などは、①破産手続きが終了すると同時に解除されます。しかし、職業制限だけは、①破産手続きが終わっても同時には解除されません。
職業制限だけは、②免責の許可が下りるか、または次に解説する復権の手続きを経るなどすることで、解除することができます。
復権の種類
復権の種類には、特別な手続きが必要でない「当然復権」と、裁判所に申し立てる必要がある「申立による復権」の2種類があります。もっとも、通常は、免責されれば「当然復権」となるため、あまり心配する必要はありません。
免責は、借金を帳消しにするための手続きであり、免責が認められないと、借金はそのまま残り、返済を続けなくてはなりません。免責は同時に、当然復権を得るための手続きでもありますので、非常に重要です。
裁判所に免責を認めてもらうために、嘘のない正確な手続きと、手続き関係者に対する真摯な態度を心がけましょう。
復権については、破産法255条と256条に定めがあります。
【破産法255条 当然復権】
破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
一 免責許可の決定が確定したとき。
二 第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
三 再生計画認可の決定が確定したとき。
四 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
2 前項の規定による復権の効果は、人の資格に関する法令の定めるところによる。
3 免責取消しの決定又は再生計画取消しの決定が確定したときは、第一項第一号又は第三号の規定による復権は、将来に向かってその効力を失う。
【破産法256条 申立による復権 ※一部抜粋】
破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
手続きが不要な「当然復権」の4つの類型
当然復権となるのは以下の4つのパターンです。免責が受けられなくとも、犯罪行為をしない限り、最長で破産手続き開始から10年経てば職業制限はなくなります。とはいえ、職業制限がある仕事に就いている場合や、将来そのような仕事を希望している場合は、できるだけ早く復権するためにも、免責の許可を受けられるように頑張りましょう。
(1)免責許可の決定が確定したとき
自己破産手続きをした人のほとんどが免責を受けられるので、通常は、免責許可決定の確定と共に、特別な手続きをしなくとも当然に職業制限は解除されます。
(2)破産手続が同意廃止決定で確定したとき
破産者が破産手続きを廃止したいと望み、債権者全員がそれに同意した場合は、破産手続きは終了し、当然復権の効果が発生します。もっとも、債権者は配当がなければ同意するとは思えませんので、同意するケースは稀です。そのため、同意廃止が現実に行われることはほとんどありません。
(3) 再生計画認可の決定が確定したとき
自己破産を申立ても免責が得られなければ借金は残ってしまうわけです。そのような場合、個人再生等の方法を使って債務整理を行うこともできます。個人再生を裁判所に申立て、再生計画の認可決定が認められると復権を得るとこができます。再生認可計画が決定した場合は、自己破産による職業制限は解除され、当然に復権します。
(4)破産手続開始決定後、詐欺破産罪の有罪確定判決を受けることなく10年経過したとき
裁判所から免責が受けられなかった場合でも、財産隠しなどの詐欺破産罪にあたる犯罪で有罪の確定判決を受けなかった場合は、10年経つと職業制限は解除され、当然復権します。
自分が復権したのか知りたいときは、本籍地のある市区町村の窓口にて、「身分証明書(破産者等に該当しないこと、成年被後見人でないことの証明)」を発行してもらうことでわかります。なお、身分証明書の発行には1通300円かかります。
手続きが必要な「申立による復権」とは
当然復権に当てはまらなくとも、破産者がすべての債権者に債務を弁済するなどして、借金などの債務がなくなった場合、裁判所に申し立てれば、裁判所は破産者の復権を認めなればなりません。
あまりないパターンですが、例えば、親の遺産を相続したり、宝くじが当たったりして、返済できたケースが考えられます。弁済が完了しても、当然に復権とはならず、裁判所で手続きが必要なことには注意が必要です。
復権の効果
復権をすると、職業制限がなくなり、弁護士や税理士と言ったお金や秘密を管理する仕事や、警備員、生命保険の募集人などになることができます。資格制限のある仕事をしている人は、資格制限の発生から復権まで3~6か月程度かかるので、その間どうやってお金を稼ぐのか、あらかじめ考えておかなくてはなりません。
なお、復権とはあくまで職業制限が解除されることなので、信用情報とは別です。免責により復権できても、それにより、ただちに借金ができるようになったり、クレジットカードを使えるようになったりするわけではないので、気を付けてください。
お金の貸し借りに関する情報は、「信用情報機関」という国が認めた機関に登録され、自己破産の場合は5~10年記録が残ります。信用情報の自己破産の記録は、決められた期間が経過するのを待つ以外に、削除する手段はありません。
しかし、信用情報以外のことに関しては、長期にわたって制限を受けることはないので、安心してください。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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