個人再生と自己破産の違いは、個人再生は借金が減額になる手続きであるのに対し、自己破産は借金が帳消しになる手続きということです。その代わり、個人再生は財産を処分されずに済みますが、自己破産は一定額以上の財産を処分されるなどデメリットがあります。詳しい違いや、個人再生と自己破産が向いている人、個人再生と自己破産後の生活について解説します。
目次
個人再生と自己破産の違い
個人再生と自己破産は、どちらも裁判所を通じて借金問題を解決する債務整理の一種です。個人再生は借金が大幅に減額されますが、財産は原則として処分されない手続きであり、自己破産は借金が帳消しになるかわり、財産は原則として処分されるという点が大きく異なります。
その他にも、二つの手続きには違いがあります。以下に表にまとめました。
【個人再生と自己破産の違い】
このように、個人再生と自己破産では、主に①借金の減免、②手続き後の借金返済、③財産の処分、④職業制限、⑤借金の理由、という5つの側面において違いが発生します。
他方、個人再生の場合も、自己破産の場合も違いがない点もあります。
【個人再生と自己破産の共通点】
- 弁護士に依頼することで債権者からの督促や直接の連絡を停止できる
- 信用情報機関の記録に事故情報が残り、5~7年の間、新たな借り入れやクレジットカードの利用が難しくなる(ブラックリスト)
- 裁判所を通す手続きである
- 原則としてすべての債権者を手続きの対象とする
- 差し押さえを停止できる
- 国が発行する官報に掲載される
債務整理にはほかにも「任意整理」という手続きもあり、これは比較的借金問題が軽い人に向いた手続きです。1,2は債務整理すべてに共通する点ですが、3以降は裁判所を通した手続きである個人再生や自己破産ならではの特徴となっています。
個人再生と自己破産にはそれぞれにメリットやデメリットがあります。違いについて具体的に説明しますので、ご自身に適した債務整理方法を選択するためにお役立てください。
借金の減額について
個人再生と自己破産のもっとも大きな違いは、個人再生は借金が減額されますが、無くならないのに対し、自己破産は免責により借金が消滅することです。個人再生は手続き後おおむね3年(裁判所に認められれば5年)にわたって、減額された借金の返済を続けなくてはならないので、継続または反復して収入があることが手続きの条件になります。一方、自己破産は収入がなくとも可能です。
【1】個人再生
個人再生の場合、借金の総額を大幅に減額することが可能です(5分の1~10分の1程度にまで圧縮)。個人再生手続きにおいては、法律の規定に従って減額した借金をどう返済していくのかを、債務者自身が「再生計画」として裁判所に提出し、認可を受けます。そして、その再生計画に従って、3~5年の返済を無事に終えられれば、残りの借金については免除されます。
注意点としては、借金を100万円よりも少なくすることはできません。また、住宅ローンを除く借金総額(基準債権総額)が5,000万円を超えている場合は個人再生手続きができません。加えて、住宅ローン返済中のマイホームに住み続けることを希望される場合は、住宅ローンについては約定通り返済しなくてはなりません。
個人再生には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類の手続きがあり、それぞれ以下のルールで借金の最低弁済額が決まります。
・小規模個人再生の場合
一般的によく用いられる個人再生手続きです。債権者の過半数又は債権総額の2分の1を占める債権者の反対がないことが条件になります。
【最低弁済額の計算方法】
①最低弁済基準
民事再生法231条が定めている、法律上最低限支払わなければならない借金の額のことで、住宅ローンの残債務を除外した借金総額によって最低弁済額が決まります。
②財産から算出する金額(清算価値基準)
再生手続きをする人が財産を持っている場合、一定額以上の価値のある財産をすべて処分したと仮定して、その価格(清算価値)と同等以上の金額を、再生計画の中で弁済しなければならないというルールがあります。これを清算価値基準といいます。
※一定額以上の価値のある財産とは
生活に必要な家財道具などを除く、家などの不動産や、20万円以上の価値のある車・預貯金・その他の財産、退職金の見込額が160万円を超える場合,その8分の1など
清算価値は、仮に自己破産した場合に、財産が処分・換価され、債権者に配当される金額と同じです。つまり、個人再生をする人は、財産を手元においておけるかわりに、自己破産したときと同等以上のお金を返済しなければならないというルールです。
小規模個人再生では、①最低弁済基準と②清算価値基準のどちらか高額なほうが最低弁済額となります。
例えば、1,000万円の借金があった場合、大きな財産がなければ、最低弁済額は5分の1の200万円となります。しかし、300万円分の清算価値のある財産を持っていた場合、最低弁済額は300万円となります。
・給与所得者等再生の場合
サラリーマンなど、給料が安定している業種で、債権者が再生計画に反対することが予想される場合にこの手続きを取ります。給与所得者等再生では、手続き中に債権者による決議は行われません。
【最低弁済額の計算方法】
①最低弁済基準と②清算価値基準に加え、③可処分所得基準が加わります。
③可処分所得基準
収入から、税金・社会保険料・最低限度の生活を維持するために必要な費用の額を差し引いた金額(可処分所得)の2年分。
①②③のうち最も高額なものが最低弁済額となります。この可処分所得基準が、①②に比べ割高になりやすいので、通常は小規模個人再生が利用されます。
【2】自己破産
自己破産の場合、免責という手続きをとることで、借金がすべてゼロになります。
自己破産の際、免責という借金を帳消しにする手続きを取りますが、この際、借金をした原因や理由が問題になることがあります。浪費やギャンブルといった理由の場合、法律が定めた免責不許可事由となっており、免責が認められないことがあります。
一方で、免責不許可事由に当たるケースでも、裁判官による裁量免責という方法で免責が認められることもあるので、現実にはギャンブルや浪費が原因の借金であっても多くの人が自己破産をしています。しかし、借金の原因が手続きの成否に影響することは注意しておく必要があります。
これに対し、個人再生は借金の理由が手続きに影響することはありません。
手続き後の借金返済の有無について
個人再生の場合、手続き後も借金の一部が残るので、その後3~5年間返済を続けることになります。そのため、手続きの時点で将来にわたって継続的・安定的な収入があることが必須になります。
小規模個人再生では、会社員のほか、個人事業主、小規模事業の経営者、非正規雇用やアルバイトでも手続きが可能です。他方、給与所得者等再生の場合は、収入額の変動幅が少ないサラリーマンなどを想定しています。
自己破産の場合は、手続き後に借金は残らないので、現在無職の人や無収入の人でも手続きが可能です。
財産処分について
個人再生の場合、清算価値基準のルールを守り、一定額以上の財産を処分したのと同等以上の借金額を返済すれば、財産を手放さずに済みます。これに対し、自己破産は、原則として20万円以上の財産は全て換価・処分されてしまいます。
・住宅ローン返済中の家について
住宅ローンを返済途中の家がある場合、個人再生手続きの場合、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)という制度を利用することにより、住宅ローンだけは通常通り返済し自宅を所有し続けることが可能です。これに対し、自己破産の場合、ローン付きの家は手放すことになります。
・住宅ローンが済んでいる家について
個人再生の場合、家の価値以上の金額の借金を返済すれば、手放さずに済む可能性があります。しかし、通常、不動産は資産価値が高いので、田舎で資産価値が特に低いケースなどを除いて、原則として手放すことになるでしょう。自己破産の場合は原則として手放すことになります。
・ローン中の自動車について
ローン中の自動車や、カーリースしている車がある場合、多くの場合は契約によって所有権留保がついており、個人再生や自己破産を行うと車を引き上げられてしまう可能性があります。
職業制限について
自己破産をすると、資格や許可を得て行う職業のうち一部について、手続きの間、資格が失われます。これに対し、個人再生はこのような職業制限がありません。
【資格制限が発生する職業の例】
- 警備員
- 社会保険労務士
- 動物取扱責任者
- 質屋営業の許可など
このほかにも資格や許可について、個別法によって資格制限が設けられているケースがあります。資格職の方で、自己破産をお考えの方は、あらかじめご自身の職業に制限がないか確認されることをお勧めします。
【資格制限の期間】
自己破産の資格制限はずっと続くものではなく、破産法255条の免責許可決定の確定により復権が認められます。自己破産の際、多くの人が手続きをする「同時廃止」のケースでは、破産手続開始決定から免責許可決定の確定まで約3ヶ月程度となっています。
職業制限が存在する職業で、自己破産をすることで仕事に差し支えが発生する場合は、個人再生を選択されるほうが良いでしょう。
個人再生と自己破産が向いているのはどういう人?
個人再生手続きをするためには「住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円以下」「継続的・安定的な収入がある」という2つの条件をクリアすることが必須になります。他方、自己破産にはこのような制限がありません。
個人再生の手続きをするための条件を満たしていても、守りたい大きな財産がない人であれば、自己破産をすれば借金が帳消しになるため、自己破産するメリットが大きいといえます。借家や両親、伴侶名義の家に住んでいるケースなどでは、自己破産をしても家を出る必要はありません。
なお、借金問題の程度が比較的軽く、借金の元本だけなら3~5年の分割払いにすれば返済できるという人の場合は、任意整理という債務整理方法もあります。任意整理では、弁護士を通じて債権者に私的な交渉を行い、将来利息のカットやリスケジュールなどをしてもらいます。個人再生や自己破産に比べ、手続きが簡単で社会的影響が少ないというメリットがあります。
どの債務整理が自分に向いているか判断がつかないという人は、一度法律事務所の無料相談に行かれることをお勧めします。債務整理の場合、多くの弁護士や法律事務所が無料で法律相談を受け付けています。
相談だけではなく、債務整理を弁護士に正式に依頼する場合は、一定の費用が発生します。しかし、お金に困っている人でも無理なく支払えるよう、分割払いが可能な法律事務所もあります。
また、法テラス(日本司法支援センター)と言う、国が設立した法律トラブルの総合案内所があり、こちらには自己破産費用を立て替えてくれる制度もあります。ただし、法テラスの場合は、担当する弁護士を選べないというデメリットがありますのでご注意ください。
個人再生後の自己破産は可能?
個人再生をした後に自己破産をすることは可能です。そのため、個人再生で減額された借金を支払っている途中に、病気や怪我、会社の倒産などで収入が減ってしまった場合は、再生計画を取り消して自己破産手続きにより借金問題を解決することができます。
ただし、以下の2つの条件に当てはまる場合は自己破産ができません。
- 給与所得者等再生を利用した場合、再生計画許可決定後7年は自己破産できない
- ハードシップ免責を利用した場合、確定から7年間は自己破産できない
【ハードシップ免責とは】
ハードシップ免責とは、再生手続きをした人が、その責任によらない理由で再生計画の継続が困難になった場合、4分の3以上を返済しているなどを条件に残債務の支払を免除する制度のことです。
やむを得ない事情で収入が減り、すでに債務の大半を支払っている場合、この制度を利用すれば、自己破産をしなくとも借金問題を解決できる可能性があります。ただし、その後7年間は自己破産ができないことには注意が必要です。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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