破産管財人とは、自己破産において債務や財産の管理などを行う、裁判官によって選任された破産事件の経験豊富な弁護士です。自己破産には同時廃止と管財事件と言う二つの手続きがあり、管財事件の場合には破産管財人が選任されます。破産管財人には嘘をつかずに真摯な態度で接する必要があります。破産管財人の職務や存在理由、接し方について詳しく解説します。
目次
破産管財人とは?
破産管財人とは、自己破産の際、比較的複雑なケースに関して、破産事件の処理を行うために裁判所が選任する弁護士です。
破産管財人は、破産法2条にて「破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。」と定められています。破産財団とは、「破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産」のことで、破産手続の際、破産管財人が管理や処分をすることができるもののことを言います。
破産管財人は、自己破産をすれば必ず選任されるわけではなく、単純で財産がない事件では自己破産をしても破産管財人が選ばれないケースもあります。しかし、調査の必要がある場合や、会社経営者や個人事業主などの自己破産の場合は、破産管財人が選任されます。
破産管財人が選任されると、破産管財人に対する報酬は、破産を申し立てた人が支払わなくてはなりません。破産管財人の報酬は「引継予納金」と呼ばれ、個人の破産事件の場合は最低でも20万円ほどかかります。
破産管財人はどういう時に選ばれるのか?
破産管財人は、自己破産のうち「管財事件」と言う手続きによる場合に選任されます。自己破産手続の種類は裁判所が選びますが、事前に管財事件になるかどうか判断できますので、無料相談を受け付けている町の法律事務所などに問い合わせて、ご自身のケースでは管財事件となるかどうか、確認されることをお勧めします。
自己破産には、大きく分けて、「同時廃止」と、「管財事件」の2種類の手続きがあります。個人の自己破産の場合、多くは同時廃止手続きとなりますが、同時廃止の場合は破産管財人が選任されません。同時廃止は処分が必要な財産がなく、事案も比較的単純なケースなので、破産処理の専門家が介入しなくても良いことになっています。
しかし、例えば以下の条件に1つでも当てはまるケースでは、調査の必要があるため、管財事件になります。
- 財産が20万円以上
- 個人事業主や会社経営者
- 借金の原因がギャンブルや浪費など、免責不許可事由がある場合
- 財産を隠している可能性があるなど、調査の必要がある場合
こうしたケースでは、自己破産の処理に当たるために破産管財人が裁判所によって選任されます。
少額管財と通常管財(特定管財)
管財事件には、「少額管財」と「通常管財(特定管財)」の2種類があり、少額管財の場合は破産管財人の報酬は20万円程度、通常管財の場合は50万円程度となっています。
通常管財は、規模の大きな企業が破産する際などに使われる手続きで、個人の自己破産においてはほとんど使われることがありません。したがって、個人破産の場合は、基本的に少額管財になると思ってください。(※一部、少額管財を取り扱っていない裁判所もあり、その場合は個人の破産も通常管財となります)
少額管財の場合、破産者が事前に弁護士に依頼することが必須なので、手続き費用の総額は弁護士費用も併せて50万円程度となります。
破産管財人が選任される理由
自己破産の際、不正な免責を防止し、手続きの公平性を確保することにより、債権者をはじめとする利害関係人の利益を適切に確保することが、破産管財人が選ばれる理由です。
破産管財人が選任されると破産者の財産の管理処分権は破産管財人に移ります。
破産者の財産が他にないか調査したり、破産申立直前に偏波弁済(不公平な債務の弁済)や贈与等なかったかどうかの調査も行います。
自己破産は、債権者にとってみれば、合法的に貸したお金が返ってこなくなる手続きですから、やむを得ず自己破産をする場合でも、不正はしてほしくないし、いくらかでも配当金が出るならば受け取りたいと考えます。
もしも破産管財人がいないと、例えば、破産者には換価して債権者に配当できるめぼしい財産が残っているのに、手放すのが嫌で、どこかに隠してしまう可能性があります。そうなると、債権者は貸したお金が返ってこず我慢しなければならないのに、破産者は財産を好きに使えてしまい、公平ではありません。そのため、破産管財人がきちんと財産の調査・処分・換価を行うことで、利害関係者に不公平がないように取り計らいます。
また、ギャンブルや浪費による借金であっても自己破産はできますが、本当に反省しているのか、きちんと借金をするに至った状況を調査して話を聞かないと、再びギャンブルや浪費を繰り返しかねません。それではお金を貸した人も、本質的には借金をする本人自身も困ってしまいます。
そのため破産管財人は、免責不許可事由がある場合でも破産手続きをすることによって経済的再生が期待できると認めた場合に、裁判所に対し免責相当の意見書を提出し、これを参考に裁判所は免責許可を出すこともあります。
破産管財人がやる事
破産管財人は、さまざまな仕事がありますが、大きく分けて「債権調査」「財産の管理・処分・回収」「免責に関する調査」「債権者集会」「配当手続き」の仕事を行います。
(1)債務額の確定
債務がいくらあり、だれが債権者で、最終的にいくら配当しなくてはならないのか、確定債務の調査を行います。手続きとしては、債権者が、裁判所に対して、債権の額や種類を書いた書類を提出するので、破産管財人がその債権の有無や、金額が間違っていないかをチェックします。
(2) 財産の管理・処分・回収
破産手続開始後は、破産者の財産は「破産財団」と呼ばれ、破産管財人に管理されます。財産目録などを作成するだけではなく、必要がある場合には、財産を実際に破産管財人の管理下に置く場合もあります。
また、財産を隠匿している可能性がある場合には、隠匿財産の調査や、特定の債権者にだけて返済をしていないか(偏頗弁済)の調査、回収なども行われます。
(3) 免責に関する調査
破産に至った事情や、借金をした理由について調査し、免責不許可事由にあたらないかどうかをチェックします。免責不許可事由とは、自己破産手続きをしても免責が得られなくなる事由のことで、ギャンブルや浪費など、一定の免責不許可事由が破産法252条に列挙されています。
免責不許可事由があっても、「裁量免責」と言って、裁判官の裁量により免責をすることができます。免責不許可事由があったと言っても、様々な原因があります。例えば、ギャンブルで借金があったけれど、なんとか返済できるレベルだったところ、コロナ禍で収入が減ってしまって返せなくなった場合と、得られた収入のほとんどをギャンブルにつぎ込んでいた場合とでは、免責を認めるかどうかの判断が違ってきます。
免責不許可事由がどの程度借金の原因となったのか、破産者の話や生活状況、反省の態度などを総合的に見て、免責するかどうかを決定します。この裁判官の決定に、破産管財人の報告や意見は重要な役割を果たします。
(4) 債権者集会
破産手続きが進んで債権者集会が開催されると、破産管財人は、債務や財産の調査結果、破産した理由、配当の可能性などについて報告を行います。個人破産の債権者集会に実際に債権者が来ることは少なく、破産者及び破産者代理人の弁護士のほかは、裁判官と破産管財人が出席して集会が行われます。しかし、場合によっては債権者が出席して、詳しい説明がされることもあります。多くのケースでは1回で債権者集会は終了します。
(5)配当手続き
破産管財人による調査の結果、配当を行える財産がなければ破産手続は廃止となります。債権者に配当できるだけの財産があれば、破産管財人は、財産を債権者に配当します。
破産管財人が選任された場合、どうすべきか?
破産管財人の選任後は、破産者は破産管財人の調査に協力しなければなりません。そのほか、面接や債権者集会への出席、郵便物の転送、引っ越しや旅行等の制限と言った義務が課せられます。
(1)協力義務
破産者は、破産管財人に財産を開示し、管理や処分をしてもらい、質問には嘘偽りなく答えなくてはなりません。財産を引き渡すよう求められることもあります。
破産管財人に非協力的だったり、財産を隠蔽したり、嘘をついたり、態度が悪かったりすると、程度によっては免責が不許可になることがあるので、注意が必要です。
破産管財人は、債権者をはじめとする利害関係人全員の利益のために行動するので、必ずしも破産者に好意的に動いてくれるわけではありません。それを理解したうえで、免責と言う重要な手続きを成功させるために、破産管財人には真摯な態度で接しましょう。
(2)面接や債権者集会への出席
破産者は、破産管財人との面接や、債権者集会には出席しなくてはなりません。
(3) 郵便物の転送
破産手続開始決定後~手続終了まで、破産者あての郵便物は破産管財人に転送されます。また、郵便物の内容もチェックされます。
(4) 引っ越し、旅行、出張などの事前許可制
破産手続開始決定後~手続終了まで、引っ越しや旅行、出張などは、原則として事前に破産管財人や裁判所の許可を得る必要があります。
自己破産する際の破産管財人との接点とは?
破産管財人と破産者は、主に管財人面接と債権者集会で直接会います。また、管財人面接の前に、自己破産申立書の内容についての質問や、追加資料を提出するよう求める連絡があります。加えて、破産者の財産のうち破産管財人が財産を管理する必要があると判断したものについては、引き渡しが求められます。
管財人面接と、債権者集会は、どちらも個人の破産の場合、通常は1回で終わります。しかし、事案が複雑で、調査することが多い場合には、複数回にわたって開催されることがあります。
個人破産の際、少額管財には事前の弁護士への依頼が必須
個人の破産が管財事件となる場合、多くのケースで少額管財となりますが、少額管財手続のためには自己破産の前に弁護士に依頼しておく必要があります。弁護士に依頼せずに自己破産をすると、管財事件となった場合、通常管財という扱いになってしまい、弁護士を頼んで少額管財手続きをするよりも、高いお金がかかってしまいます。
司法書士ではなく、弁護士でなければ少額管財手続きはできないので注意してください。
また、管財人面接や債権者集会には弁護士が付き添います。司法書士は、書類の作成は可能ですが、こうした付き添いはできません。
他にも、弁護士に頼めば、「依頼した時点で滞納している借金の督促がストップする」「裁判所に提出する書類の作成がスムーズになる」「法律の専門家が介入することで破産管財人の印象が良くなる」など、弁護士に依頼することには数多くのメリットがあります。
自己破産をお考えの際は、事前に弁護士と法律相談をされることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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