債権と債務について、日常生活での代表的な契約の種類や発生事由を紹介しつつ、定義や債権の効力、関係性などをわかりやすく解説します。債権と債務は表裏一体の概念で、理解すれば法律だけではなく、社会生活の様々なシーンの理解が深まります。法律知識がないと理解が難しい第三債務者という概念についても、具体例をもとに紹介します。
債権と債務の定義
債権とは、法律の用語で、「相手に何かをしてもらう権利」のことを指します。債務とは、債権と対をなす概念で、「相手に何かをしなければならない義務」のことを指します。
債権・債務という言葉が一般的によく出てくるのは、お金の貸し借りのシーンでしょう。お金の貸し借りのことを法律用語で金銭消費貸借契約と言いますが、この場合、債権者とはお金を貸した人のことで、「貸したお金を受け取る権利のある人」という意味になります。他方、借金をした人を債務者と呼びますが、「借りたお金を返す義務がある人」という意味です。
債権債務という言葉は、お金に限らず、例えば「AはBのためにヴァイオリンを弾く」「AとBは協力して子供を育てる」といった、行為やサービスも債務になります。
債権債務関係の両者のうち、片方だけが債務を行わないことを債務不履行と言います。また、債務は履行したものの不十分だった場合を不完全履行と言います。
また、経済のニュースなどで、「債権譲渡」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、「A社はB社から商品の代金1,000万円を受け取る権利がある」という場合に、A社がC社に1,000万円の債権を譲ってしまう、といった取引のことです。債権譲渡が行われると、今度は「C社はB社から1,000万円を受け取る権利がある」という債権になります。このように、債権は別の誰かに譲渡することもできます。
債権・債務という言葉は、このように、お金の貸し借りだけではなく、金融や労務関係、家族関係など様々な場面で使われる概念です。この概念を学ぶことで、法律だけでなく、社会の様々な出来事について深く理解することができます。
債権にはどんなものがある?
債権債務関係は、法律上保護される人間同士の契約であれば、社会生活の中で絶えず発生しています。以下、代表的な債権・債務が発生する契約をご紹介します。
【契約によって発生する債権】
(1)売買契約
例えば、10万円のパソコンをインターネットの通販サイトで買った場合、買主には「パソコンを受け取る債権」と「10万円を支払う債務」が発生します。売主には、「パソコンを発送する債務」と、「10万円を受け取る債権」が発生します。このように、双方が債権と債務を持ち、それぞれが債務を履行することで契約の内容が達成できることを「双務契約」と言います。
ネットショッピングの場合は、買主と売主双方に「買いたい」「売りたい」という意思表示があることが明らかです。しかし、家電量販店で買った場合、店員と言葉を交わさなくとも、レジで商品のパソコンとお金を交換すれば契約が成立したことになります。このように、契約の性質になっては、黙示であっても債権債務関係が成り立つことがあります。
(2)賃貸借契約
例えば、賃貸マンションの一室を借りるという契約の場合、入居者は借りた部屋で、契約の範囲内で自由に暮らす債権を持っていますが、代わりに毎月の賃料を支払うという債務を負います。他方、マンションのオーナーは入居者に部屋を貸す債務を負い、代わりに毎月家賃を受け取るという債権を得ます。
(3) 労働契約
社員が会社のために働くという債務を負い、代わりに給料を受け取る債権を得る契約を労働契約と言います。会社は、社員を働かせることができる債権を持っており、代わりに給料を支払う義務を負います。
以上は、人間同士の契約で発生する債権でしたが、契約以外のことで発生する債権もあります。
【契約によらずに発生する債権】
(4)不法行為
例えば、Aが運転中に誤ってBにぶつかって怪我をさせたという場合、BはAに対し「不法行為による損害賠償権」という債権を取得します。このように、ある人が他人の権利や利益を違法に侵害した場合は、契約は発生していませんが、債権債務関係は発生します。
(5)不当利得
Aが、法律上の原因がないのにBからお金を受け取った場合、Bはお金を返してもらえるという債権を取得します。これの典型例が過払い金請求です。本来、利息制限法を超える利息を受け取ることは、法律上無効でした。無効な利息分は、不当利得のため、借金を返済した人は取り返せる債権を得ます。
過払い金については、かつては「みなし弁済規定」という、一定の条件のもとに利息制限法の範囲を超える利息を受け取ることを有効とする制度がありました。しかし、判例や法改正により、「みなし弁済規定」はなくなりました。そのため、不当利得を得た貸金業者に対して、借金を弁済した人は、払いすぎた利息分について、不当利得として返すように請求する債権を持っています。
債権の効力と債務者に何ができるか?
債権者が債務者に対して請求を行っても、債務者が従うとは限りません。そこで、債権者の利益を守るため一定の効力が認められています。
・給付保持力
債務者から受けた給付を適法に所持できる効力です。例えば、Aの家を訪ねてきたBが何も言わず1万円を置いて帰って行った場合は、Aは、法律上の原因がないのでそのまま黙って1万円を自分のものにすることはできません。しかし、AがBに電話をかけたところ、「以前酔って帰った時にタクシー代1万円を借りたから、その1万円はそのお金だ」と言った場合は、BはAに1万円を返したことになりますから、Aはその1万円を適法に所持することができます。
・訴求力
債務者が約束通りに債務を履行してくれない場合、債権者は訴訟を起こし、裁判所を通じて債務を履行するよう請求することができます。
・執行力
執行力は、訴訟で確定した債権の内容をその通りに請求できる「貫徹力」と、従わない場合は強制執行をかけて給料や財産を差し押さえたりできる「掴取力」に分かれます。
・損害賠償請求権
一部の契約違反や債務不履行、不法行為などが原因の債権には、損害賠償請求権が発生します。例えば、お金を借りて、期日までに返さなかった場合は、借金の元本及び利息の返済のほかに、期日を過ぎて以降の遅延損害金が発生します。
・契約の解除
例えば、約束通りに債務を履行しなかった場合、債権者は契約の解除をすることができるケースがあります。例えば、お店にお金を払ったのに商品を引き渡してくれなかった場合は、債権者はお金を返してもらって契約を解除し、別の店でほしい商品を買いなおすことができます。
債権と債務の違い
債権と債務は、表裏一体の関係にあります。例えば、「AはBから100万円を受け取ることができる債権を持っている」という場合、これは裏を返せば「BはAに対し100万円を支払う債務を負っている」ということです。債権があるところには必ず債務があります。
債権と債務の違いは、債権は履行をするように相手に請求でき、これに従わない場合は、裁判所を通じて履行を求めることができることです。「給付保持力」「訴求力」「執行力」「損害賠償請求権」「契約の解除」といった債権の効力を利用して、相手に債権の内容を実現させることができます。債務にはこのような効力はありません。
とはいえ、社会生活においては、債権者と債務者で、債務者のほうが不利になりがちな契約も存在します。例えば、お金の貸し借りである金銭消費貸借契約において、プロの貸金業者である債権者と、素人の借主である債務者では、お金を貸している債権者のほうが立場が強いため、放っておけば一方的に債権者有利の契約を結ばされたり、強引な取り立てをされたりしかねません。そのため、立場の弱い債務者を守るために、貸金業法において様々な規制が行われています。
このように、どちらかが弱い立場に立たされる契約においては、弱い立場の人間を保護するように、法律が一定の修正を入れることがあります。
債権債務の関係性
債権と債務の関係性について、契約当事者双方が債権と債務を持つ「双務契約」と、片方が債権だけを得て、もう片方が債務だけを追う「片務契約」という二つの類型があります。また、「債権譲渡」により債権者が違う人になってしまうこともあります。
・双務契約
例えば、売買契約の場合は、「買主が代金を支払い」「売主が商品を引き渡す」という、双方向の行為があって初めて契約内容が達成されます。
買主は代金を支払いという債務を負い、売主は目的物を引き渡す債務を負います。このように双方とも債務を負っているということから、双務契約といいます。
・片務契約
例えば、贈与契約の場合、「AはBに5,000円をあげる」という約束をしたのであれば、BはAに特に何かをする義務はありませんが、Aは5,000円を支払わなくてはなりません。このように、当事者の一方のみが債務を負う契約を片務契約といいます。
片務契約の典型例は、金銭消費貸借契約です。お金の貸し借りの場合、貸主Aは借主Bにお金を渡した時点で、あとは、Bさんが約束に基づいてAさんに返済する債務だけが残ります。
借金とはすなわち債務なので、借金問題で困ってしまい、弁護士に頼んで利息をカットしてもらうよう業者と交渉したり、裁判所を通じて自己破産をしたりするといった手続きのことを、債務を整理することから「債務整理」と呼んでいます。
・債権譲渡
貸したお金のような金銭債権は、他人に譲渡することができます。貸金業者から借りたお金をしばらく返済せずにいた場合、貸金業者が「なかなか返してくれなさそうだ」と判断すると、借金の額面より安い値段で金銭債権を債権回収会社に債権譲渡することがあります。
債権回収会社は、焦げ付いた借金などの債権を回収する手法を知り尽くしたプロ集団で、債権を安く買う代わりに、額面通りの金銭を確実に回収しようとしてきます。自分の借金の債権がこうした会社に渡った場合、法律の専門家を通じて交渉したほうが良いでしょう。
第三債務者が存在する場合の債権債務の関係性
第三債務者とは、債務者に対してさらに債務を負っている立場の人のことです。わかりにくいので、具体例で説明します。
・マンションのオーナーと入居者
例えば、賃貸マンションのオーナーは、金融機関から借金をしてマンションを建てます。月々の返済は、部屋の入居者から家賃を得て、その中から支払っていくという仕組みの土地活用です。しかし、オーナーに事情があって、家賃を返済に回す代わりに、別のことに使ってしまった場合、借金の返済が滞って金融機関は困ります。しかし、入居者はきちんと家賃を収め続けていたとします。
この場合、債権債務関係は以下のようになります。
債権者=金融機関
債務者=賃貸マンションのオーナー
第三債務者=入居者
債権者である金融機関は、借金を滞納している債務者であるオーナーの代わりに、マンションの入居者を第三債務者として、毎月の家賃を差し押さえることができます。
・サラリーマンと勤め先の会社
また、金融機関から借金をして滞納していたのがサラリーマンであった場合、金融機関は給料を支払っている会社を第三債務者として、給料を差し押さえることがあります。
このケースでは、債権債務関係はこのようになります。
債権者=金融機関
債務者=サラリーマン
第三債務者=勤め先の会社
ただし、給料債権の場合は、債務者の生活を守るために、差押え禁止範囲があります。給料の4分の3は差し押さえることができないため、債権者である金融機関は、原則として、給料の4分の1しか差し押さえをすることができません。
ただし、債務者の月額の給料が33万円を超える場合、33万円を超える部分については全額差し押さえが可能です。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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