ギャンブルによる借金でも個人再生は可能です。ギャンブルが原因で個人再生を行うのに向いている人や、個人再生手続きの際の注意点について解説します。自己破産以外の債務整理では、借金の原因に関係なく手続きすることができます。また、自己破産であってもギャンブルが原因の借金を免責してもらえるケースがあります。それぞれの手続きへの影響なついてまとめました。
目次
ギャンブルの借金でも個人再生は可能?
個人再生手続は、借金をした原因について制限がありませんので、ギャンブルや浪費、行き過ぎた投資そのほかの原因でも手続きが可能です。個人再生を裁判所に申立する際、借金の原因となった理由を述べる訳ですが、ギャンブルをしたと正直に告白しても、そのことから個人再生に不利になることはありません。
これに対し、自己破産手続の場合は、借金をした原因がギャンブルの場合、自己破産による免責が受けられない可能性があります。免責とは、借金を帳消しにするという、とても強力な効果を発する手続きで、免責を受けられなければ自己破産をした意味がありません。免責が受けられなくなるおそれのある事情を、免責不許可事由といいます。
個人再生にも不認可になる事はあります。手続きに不備があったり、返済能力や再生計画の内容に問題があるなど原因として考えられます。
個人再生だけではなく、任意整理においても、借金の原因がギャンブルでも手続きは可能です。また、自己破産であっても、実際には裁判官の裁量によって、ギャンブルが原因の借金も多くのケースで免責が認められています。
そのため、弁護士と相談されたうえで、ご自身のケースに最も適した債務整理方法を選ばれることをお勧めします。
ギャンブルが借金の理由だった場合は、個人再生に不利になる?
裁判所によって選任された個人再生委員に、ギャンブルにより借金を作ったことを話しても、個人再生手続に不利になることはありません。ただし、個人再生は減額された債務を分割して原則3年、特段の事情がある場合5年間で弁済していきます。再生計画に基づく弁済方法は3か月に1回以上の弁済をすることが決まっており、通常は毎月弁済する計画案ではなく、3か月に一度弁済する計画案を作成します。
一定の経済力や返済能力があると裁判所に認めてもらわなくては、再生計画案は認可されません。ギャンブルが原因で借金苦に陥った場合、その状況から抜け出し、再生計画に従って分割払いを行うためには、ギャンブルをやめる必要があります。
ギャンブルには依存性があり、やめるには、本人の強い意志や周囲の協力が必要です。しっかりと自分自身を見つめなおし、前向きに人生を生きるために、問題と向き合って直していきましょう。
個人再生の不許可事由とは
個人再生手続きにおける不許可事由については、民事再生法174条及び第231条第2項に規定があります。自己破産のように借金の原因について定めた条文はなく、主に手続き上の不備について定めた内容になっています。
民事再生法 第174条第2項
「裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
一 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき。ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない。
二 再生計画が遂行される見込みがないとき。
三 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。」
民事再生法 第231条第2項
「小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。」
各号の概要は以下の通りとなっています。
一 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき。
二 住宅ローンや担保権付ローンを除く債務の総額が5,000万円を超えているとき。
三 再生計画の弁済総額が最低弁済額を下回っているとき。
四 債務者が住宅資金特別条項を利用する意思を示したのに、再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき。
個人再生が向いているパターンはどういうもの?
個人再生が向いている人としては、「借金の金額が大きく、任意整理では解決できない人」「3~5年にわたって一定の金額を支払い続けることができる人」「自己破産では免責が不許可になる恐れがある人」「ローン中の家を手放したくない人」「自己破産すると資格制限のある仕事をしている人」が挙げられます。
個人再生は、裁判所を通じた手続きにより、債務の金額を大幅に減らすことができますが、減額後の債務は支払って行かなくてはなりません。そのため、借金をすべて帳消しにできる自己破産のほうが有利なケースも多く、個人再生と自己破産どちらを選ぶかは慎重に選びましょう。
以下、個人再生に適しているパターンについて、個別に解説していきます。
(1)借金の金額が大きく、任意整理では解決できない人
借金の金額が比較的小さく、利息をカットして借金の元本だけを3~5年かけて支払うことができる程度の金額ならば、社会的影響が比較的小さい任意整理が適しています。しかし、借金の元本も減額してもらわないと支払いきれないなど、所謂「返済不能」「返済不能なおそれ」がある場合、個人再生か自己破産でなければ解決することができません。
(2)3~5年にわたって一定の金額を支払い続けることができる人
最低弁済額を原則3年、最長でも5年で弁済しなければなりませんので,継続かつ安定した収入があることが必要です。
最低弁済額は、
- 清算価値(財産評価額)
- 最低弁済額(基準債権額の20%から10%になります(最低額は100万円))
の大きいほうの額になります。
(3)自己破産では免責が不許可になる恐れがある人
パチンコや競馬、競輪などのギャンブル、収入に見合わない豪華な服飾品購入や風俗、旅行、ゲーム課金などを繰り返す浪費、FXなどギャンブル性の高い投資など、自己破産では免責不許可になるおそれがある原因で借金をしてしまった人は個人再生に向いています。
とはいえ、借金の原因が自己破産手続の「免責不許可事由」に当てはまるケースであっても、破産者本人が真摯に生活態度を改める決意と態度を示せば、多くの事例で免責が認められています。免責不許可事由に当てはまっても、裁判官の裁量により、免責を許可することができる仕組みだからです。
逆に、借金をした本人に真剣に生活態度を改めるつもりがなければ、個人再生であっても手続きの成功は難しくなります。そのため、借金の原因だけではなく、収入状況や以下に挙げる要因などを考慮して、自己破産か個人再生か、手続きを選択されるとよいでしょう。
(4)ローン中の家を手放したくない人
個人再生手続は、住宅資金特別条項(いわゆる「住宅ローン特例」)を利用することにより、住宅ローン返済中のマイホームに住み続けながら、住宅ローン以外の債務を大幅に圧縮することができます。そのため、せっかく建てた家を失いたくないという人に向いています。
自己破産の場合は、ローン付きの住宅はもちろんのこと、一定金額以上の財産は、生活用品を除いてすべて換価され債権者へ配当されます。個人再生手続であれば、ローン中の住宅のほかにも、どうしても手放したくない財産については、その価値の分の債務を弁済することと引き換えに、手元に残しておくことができます。
(5)自己破産すると資格制限のある仕事をしている人
自己破産手続きを取ると一定期間、特定の資格の職業に就くことができなくなります。警備員、保険の外交員、宅地建物取引業者などで、手続きが終了すれば元通りの仕事に就くことができます。しかし、自己破産手続は3~4か月から長いと1年、手続きに時間がかかります。こうした職業の人が、収入を途絶えさせることなく借金問題を解決するためには、自己破産ではなく個人再生を選ばれたほうが良いでしょう。
また、会社の役員をしている場合、自己破産手続をとると、法律のさだめによりいったん役員を退任しなければなりません。その後、再度会社から選任されれば、免責を待たずに再び役員になることができます。しかし、周囲に自己破産の事実が発覚することは避けられません。個人再生にはこのようなルールはないため、会社役員を退任することなく借金問題を解決することができます。
ギャンブルの借金の場合、任意整理、個人再生、自己破産、それぞれへの影響は?
基本的には、任意整理、個人再生、自己破産のいずれの債務整理手続きであっても、ギャンブルが原因の借金の整理は可能です。しかし、ギャンブルが原因の場合、個人再生の手続きには少し影響があり、自己破産手続きには大きな影響があります。これに対し、任意整理の手続きにはほとんど影響がありません。各手続きへの影響を踏まえたうえで、最もご自身のケースに適した債務整理を選択されるとよいでしょう。
【1】任意整理
任意整理は、裁判所を通さず、弁護士が各債権者と私的な話し合いで、利息や遅延損害金のカット、借金返済のリスケジュールなどの交渉を行うことです。こうした交渉中に、借金の理由を尋ねてくる債権者もたまにいますが、借金の理由により交渉結果が左右されることも考えにくいです。
したがって、任意整理では、借金の原因がギャンブルであっても影響なく手続きが可能です。
【2】個人再生
個人再生は、安定的かつ継続した収入があり、そのままでは借金の支払いが不可能な人について、債務の大幅な減額を行う裁判所を通した手続きです。その後は再生計画に従って分割払いによる弁済を行います。
再生手続きにあたっては、個人再生委員が選任されることがあります。その際は、裁判所に代わって「この人は本当に再生計画通りに分割返済が続けていかれるだろうか」という点もチェックします。ギャンブルが原因の借金であっても、それだけならば手続きに影響ありませんが、手続き開始後もギャンブルへの依存が強く感じられ、分割返済の可能性に疑問があると個人再生委員に思われた場合は、その後の手続きに影響が生じかねません。
個人再生手続きの申し立てを機に、キッパリとギャンブルをやめる決意があれば、手続きに影響はありませんのでご安心ください。
【3】自己破産
自己破産は、借金が返済不能となった人について、一定額以上の財産を所有していた場合それを換価し、残った債務をすべて帳消しにできる、裁判所を通した手続きです。ギャンブルという借金の原因が、手続に直接大きな影響を与える唯一の債務整理方法です。
ギャンブルが自己破産手続きに与える影響としては、(1)ギャンブルが原因の借金は、自己破産手続の「免責不許可事由」にあたります。(2)ギャンブルが原因で自己破産をする場合、「管財事件」という手続きになることが多いです。
(1)については、裁判所や、裁判所によって選任された管財人に対して、ギャンブルにより多額の借金を作ったことを真摯に反省し、今後はギャンブルをやめて人生を立て直すという決意を言動で示すことができれば、事情を考慮して、裁判官の裁量により免責が認められるケースも多いです。
(2)については、自己破産には「同時廃止」と「管財事件」いう二つの手続きがあり、同時廃止の場合は手続きが簡略化され、自己破産までにかかる期間が短く、費用も少なくて済みます。しかし、ギャンブルが原因の場合、事情を詳しく調査するため、裁判所から破産管財人(弁護士)が選任される「管財事件」になることが多いです。
管財事件の場合、管財人という役割の弁護士を裁判所が選任し、財産や自己破産するに至った経緯、状況について調査します。そのため、自己破産手続が終了するまでの期間が長くなり、また管財人への報酬も支払わなくてはならないため、同時廃止の場合よりも費用が多くかかってしまいます。
このように、ギャンブルで自己破産をする場合はデメリットがありますが、それを踏まえても、免責許可が下りればすべての借金が消滅するというメリットは強力です。特に、持ち家や大きな財産などがない場合は、失うものも少ないため、自己破産に適しています。
「ギャンブルの借金だから自己破産はできない」と思い詰める必要はありません。弁護士とよく相談して、一番無理のない債務整理をされることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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