過払い金が発生する仕組みと、過払い金請求ができる条件について、わかりやすく解説します。過払い金は、利息制限法違反の高金利で借金を返済していた場合に発生します。過払い金請求のためには4つの条件を満たす必要があります。返還請求手続きの流れや、よくある間違い、過払い金返還請求を専門家に依頼するメリット・デメリットについてもまとめました。
過払い金が発生する仕組みと2つの法律の金利
借金の利息に過払い金が発生する仕組みは、かつて「利息制限法」と「出資法」が、利息の上限金利につき別々のルールを定めていたことによります。
お金を借りる際、通常は利息を付けて返し、お金を貸す人は利息で儲ける仕組みです。利息には法律で制限を設けないと、借りた元本の何百倍もの利息を要求する業者も現れることでしょう。そのため、法律で利息の上限が定められています。
利息制限法の上限金利は以下のようになっています。
元本額10万円未満…年20.0%
10万円以上~100万円未満…18.0%
100万円以上…年15.0%
ところが、2010年6月17日以前は、出資法と言う別の法律が、借金の上限利息について「年29.2%」という別のルールを定めていました。この「利息制限法」と「出資法」の利息の差である15%~29.2%の間の利息のことを「グレーゾーン金利」と言います。
100万円借りて年15%の利息を支払うのと、同じく100万円借りて年29.2%を支払うのとでは、1年後の返済額に14万2,000円もの違いがあります。もちろん、貸金業者としては、29.2%で貸したいところです。
かつては、法律で、登録した貸金業者やカード会社について、一定の条件を満たせば、グレーゾーン金利を受け取ることが許容されていました。この法律のことを、一般に「みなし弁済規定」と言います。
2006年1月13日の最高裁判決で、この「みなし弁済規定」を事実上死文化する判決がなされ、業者等がグレーゾーン金利を受け取ることは無効になりました。それ以降は、グレーゾーン金利で借金を返済した人は、利息制限法を超える利息について、「過払い金」として業者等に返還を請求できるようになりました。
その後、法改正により、みなし弁済規定は廃止され、また、出資法の上限金利も利息制限法と同じになるように改正されました。そのため、2010年6月17日以降に新たにした借金には、合法的な業者からの借金である限り、過払い金は発生していません。
過払い金返還請求の4つの条件
過払い金請求には、「(1)消費者金融からの借金又はクレジットカードのキャッシング」「(2) 2010年6月以前からの取引」「(3)取引終了から10年経っていない」「(4)業者が今も存在している」という4つの条件があります。これらの条件に当てはまらないケースでは、過払い金の請求は難しくなります。
ご自身の借金につき、過払い金請求ができるかどうかわからないというときは、無料の法律相談などで専門家に問い合わせされるとよいでしょう。「いつ借りたか」「どんな契約だったか」「どの企業から借りたか」などが思い出せない場合でも、調査することで詳細が分かることがあります。
(1)消費者金融からの借金、またはクレジットカードのキャッシングであること
グレーゾーン金利でお金を貸していたのは、主に、消費者金融と、クレジットカード会社のキャッシングの2つです。以下のような借入先の場合は、法律の改正前から利息制限法の範囲内でお金を貸していたので、過払い金は発生していません。
- 銀行・信用金庫からの借金
- 住宅ローン
- 奨学金
- クレジットカードのショッピング枠
クレジットカードのショッピング枠に関しては、厳密には借金ではなく、立て替え払い金と言う扱いになります。そのため、リボ払いや分割払いで手数料を取られていても、利息という扱いにはならず、過払い金を請求することはできません。
また、消費者金融であっても、利息制限法の範囲内でお金を貸していた業者もあります。例えば、以下の企業です。
- モビット
- アットローン
- オリックス
- キャッシュワン
これらの消費者金融は適法な利率でお金を貸し付けており、過払い金請求できる可能性は低いです。
(2) 2010年6月17日以前からその業者等と借金の取引があること
2010年6月17日の法改正前より、その業者から借金をしていたことが必要です。クレジットカードの場合は、6月17日以前にそのカード会社と契約している必要があります。これ以降の新たな契約となると、合法的な消費者金融やカード会社の場合、過払い金は発生しません。
ただし、2010年6月17日以前の契約であっても、過払い金請求ができないことがあります。2006年1月の最高裁判決が出て以降、消費者金融やクレジットカード会社の多くは、2006年~2007年にかけて、利息を利息制限法の範囲内に引き下げる対応を行っています。そのため、対応後に新たな借金をした場合や、契約の更新が行われたケースでは、過払い金が請求できないケースがあります。
(3)取引終了から10年経っていないこと
過払い金は、最終取引から10年経つと時効にかかって消滅します。そのため、過払い金を請求するためには、借金を完済した日、最後に借入又は返済してから10年経っていないことが必要です。法改正から10年経ち、多くの過払い金が時効により消滅していますので、心当たりがある方は早めに調べることをお勧めします。
なお、借金完済から10年経っていても、その後も消費者金融から定期的にお金を借りていた場合、過払い金請求が認められることがありますので、専門家に相談してください。
クレジットカードの場合は、カードを持ち続け、利用していた場合に、過払い金請求が認められることがあります。
(4)借金をした業者等が今も存在していること
2006年の最高裁判決以降、多くの消費者が貸金業者に過払い金請求を行ったことにより、経営が立ちいかずに倒産する企業も出てきています。破産し、清算の手続きも終了している会社に対しては、過払い金請求はできません。
過払い金返還請求を行う方法
過払い金を取り戻すためには、借入先の企業に過払い金を返すよう求める手続きが必要になります。具体的には、業者から取引履歴を取り寄せ、引き直し計算を行い、過払い金の返還を求める書面を送って、業者と交渉します。以下、具体的に説明します。
(1)取引履歴の開示請求
各貸金業者のホームページや連絡先に、取引履歴を開示してほしいと申し込みます。業者側には、取引履歴の開示を請求されたら、開示しなければならない義務があります。申し込みの際、理由を述べる必要はありませんが、業者側から聞かれたとしても「取引内容や履歴を確認したい」と答えれば十分です。「過払い金請求をしたいから」と言う理由は答えないほうが良いでしょう。
(2)引き直し計算
過去の取引について、利息制限法の範囲よりも多く払いすぎた利息の有無を確定し、正確な金額を算出する計算を「引き直し計算」と言います。引き直し計算は、(1)業者から取り寄せた取引履歴(2)エクセルが使えるパソコン、の二つがあれば、個人でも計算が可能です。
引き直し計算ができるソフトは、以下のサイトからダウンロードできます。
- 名古屋消費者信用問題研究会(公式サイト:http://www.kabarai.net/)
愛知県内の弁護士を中心に結成された、消費者問題に関する研究会です。こちらのソフトは俗に「名古屋式」とも呼ばれます。
エクセルの使い方がよくわからない場合や、正確性を期したい場合は、専門家に計算してもらったほうが安心・確実です。
(3)過払い金返還請求書を郵送する
引き直し計算で判明した過払い金について、業者に支払いを求める文章を、内容証明郵便で業者に送ります。内容証明郵便とは、郵便局で行っているサービスで、「いつ、誰から、誰に対して、どんな内容の文章を送ったか」を郵便局が証明してくれます。
内容証明郵便で送れば、業者は「請求なんてされた覚えはない」と主張することはできなくなります。
請求書の書き方は、書き方が細かく決まっているわけではありません。まず、「私は、(企業名)に対し、以下の通り過払い金の返還請求をいたします」などと、何をしたいのかをはっきり書きましょう。続いて、
- 何年何月何日から何年何月何日にかけて、いくら借り入れたのか
- 具体的な過払い金の請求額
- いつまでに口座に過払い金を振り込んで欲しいのか
- 口座名や口座番号
- 請求に応じない場合は訴訟する意思があること
と言った内容を盛り込みます。
(4)業者と交渉
内容証明郵便が業者に送達されると、その後、業者から電話がかかってきて、過払い金返還の内容や返還する金額について交渉してくるのが一般的です。これを「任意交渉」と言います。
任意交渉の場合、こちらの請求した過払い金が全額返還されることは稀です。提示された内容や金額に納得がいかない場合は、民事訴訟に移行することになります。
過払い金返還請求でよくある5つの間違い
近年、過払い金請求を呼びかける弁護士事務所や司法書士事務所の広告等が多いため、過払い金請求自体の認知度は高いのですが、CMでは限られた情報量しか伝えられないため、誤解も多くなっています。一般に誤解されやすい点についてまとめました。
(1)利息制限法の範囲内の利息で払っていた場合、過払い金は請求できない
過払い金返還請求のCMなどが頻繁に流れているので、「借金をした場合はどんなケースでも利息の返還を要求できる」と勘違いされがちですが、借金が利息制限法の範囲内で借りたものである場合は、利息の返還を求めることはできません。
(2)契約書やカードを紛失していても過払い金は請求できる
契約書やカードがなくても、相手の業者に取引履歴の開示請求をすることで、正確な貸し借りの履歴や内容が分かります。また、相手の企業を忘れてしまっていても、信用情報機関と言う、個人のお金の貸し借りの情報を管理する機関に問い合わせることで、借金のあった企業や取引履歴を開示してもらえます。
そのため、手元に証拠がなくとも、過払い金返還請求が可能なケースがあります。
(3)過払い金の消滅時効は「最後に取引した日」から10年である
過払い金の消滅時効を「借金の契約をした日から10年」と勘違いされるケースがありますが、「最後に取引した日から10年」と言うのが正解です。
グレーゾーン金利で借りて、何年も時間をかけて返済した場合は、高額の過払い金が発生している可能性がありますので、調査されることをお勧めします。
(4)過払い金請求をしても、業者から嫌がらせを受けることはない
貸金業者は、貸金業法21条により、利用者に嫌がらせ行為をすることを禁じられています。そのため、過払い金請求をしても、業者から嫌がらせをされることはありません。万が一、過払い金請求後に嫌がらせを受けたら、違法行為ですので、警察に相談しましょう。
なお、過払い金請求をした業者から、その後新たに借金ができなくなったり、カードが使えなくなったりする可能性はあります。
(5)過払い金請求をしてもブラックリスト入りはしない
過払い金請求をしても、すでに完済済みの借金である場合は、信用情報機関の記録にネガティブ情報として残ることはありません。過払い金請求と関係のない金融機関からお金が借りられなくなったりすることはありませんので、安心してください。
借金を返済中で、過払い金よりも残っている借金のほうが多い場合は、任意整理と言う形でブラックリスト入りすることはあります。
過払い金返還請求は専門家に依頼すべき?
過払い金請求は1人でも行うことができますが、より短期間で、より有利な結果を引き出したい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談されたほうがいいでしょう。特に、過払い金の金額が100万円以上など高額である場合は、弁護士等に相談することをお勧めします。他方、過払い金が数万円程度である場合は、専門家に依頼すると、割が悪いと感じられるかもしれません。
しかし、1人で請求を行うと、業者の対応に時間がかかることがあります。時効が差し迫っている場合には、専門家に依頼したほうが良いでしょう。
【専門家に依頼するメリット】
- 引き直し計算や請求手続きで失敗するリスクが少ない
- 交渉が有利に進みやすく、1人で行うよりも過払い金が多く返ってきやすい
- 専門家が手続きしたほうが業者も素早く対応する
- 貸金業者と直接交渉しなくて済む
【専門家に依頼するメリット】
- 依頼料として、過払い金回収額の20%~25%程度を差し引かれる
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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