個人事業主が自己破産する際の注意点やポイントについて解説します。勤め人の自己破産と違い、個人事業主の自己破産は多くの場合、事業に大きな影響が出ます。自己破産した場合の売掛金の扱いや、従業員が家族の場合の注意点、自己破産が事業以外に与える影響など、自営業者の自己破産でよくある疑問についてまとめました。エンジニアなど高価な事業用財産が必要でない職種については、デメリットを最小限に抑えて事業継続することも可能です。
自己破産が自営業に与える影響
個人事業主や自営業者も自己破産できますが、手続きが複雑になるほか、事業を継続できなくなる可能性が高いので注意が必要です。
会社に勤める人が自己破産をしても原則として仕事には影響しませんが、自営業やフリーランスなどの個人事業主が自己破産をする場合、事業に大きく影響が出ます。
個人事業主が自己破産する際は、大きく以下の2点に注意が必要です。
目次
(1)手続きが「管財事件」になる
自己破産手続きには、簡易な手続きである「同時廃止」と、時間やコストのかかる手続きである「管財事件」の2種類があります。手続きの種類は申立人が選ぶのではなく、裁判所が判断して振り分けます。個人事業主の場合、後者の「管財事件」になると思っていいでしょう。
(2)事業継続できなくなる可能性が高い
自己破産をすると、原則として一定額以上の財産(東京地裁の場合、20万円以上の財産)は処分され、換価されてしまいます。事業に必要な商品の在庫、機材や設備なども同様に取り扱われます。そのため、在庫を持つ販売業や設備が必要な製造業、機材が必要なサービス業などは事業継続が難しくなります。
自己破産をしても処分換価されない財産は「自由財産」と呼ばれ、以下のものがあります。
【自由財産】
- 自己破産手続開始決定後に新たに取得した財産
- 差押禁止財産(生活に欠かせない衣服、寝具等)
- 99万円以下の現金
- 換価処分が難しい財産(破産財団から放棄された財産)
- その他、裁判所に自由財産の拡張が認められたもの
(東京地裁の場合、20万円以下の預貯金や、処分価格が20万円以下の財産)
逆に言えば、例えばライターやイラストレーターなど、20万円以下のパソコンや道具があれば仕事ができる職種については、自己破産後も事業継続が可能です。
また、自己破産をすると一定期間追加融資が受けられなくなる、事務所の賃貸契約やリース契約等が強制的に解約になるなど、事業継続が困難になる事があります。
借金に困っているものの、今の事業を継続したい場合は、法的整理ではなく任意整理等検討するなど、債務整理の経験が豊富な弁護士に相談して方針を決めたほうが良いでしょう。
従業員がいる場合の給与はどうなる?
自己破産手続をとると借金は帳消しになりますが、従業員の給与の支払い義務は残り、額面通り支払わなくてはなりません。これは、従業員が家族であっても同様です。
自己破産をしても債務が免責にならない債権のことを「非免責債権」と言い、破産法253条に規定があります。非免責債権には以下のものがあります。
【非免責債権】
- 税金や社会保険料、年金、下水道料金
- 罰金
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 破産者が故意又は重大な過失により加えた、人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 婚姻に関する生活費や子の養育費
- 雇用関係に基づいて生じた使用人の給与の請求権、預り金の返還請求権
- 破産者が意図的に債権者名簿に記載しなかった請求権
このうち、「雇用関係に基づいて生じた使用人の給与の請求権、預り金の返還請求権」については、個人が従業員を雇ったケースを想定しています。
給料とは、従業員が自分のために労働したことに対する対価であり、支払われなければ従業員の生活にかかわるので、自己破産で免責されるべきではないという考え方です。そのため、経営が苦しく給料が支払えない状態で自己破産をしても、給与支払いの義務は引き続き残ります。
※家族が従業員の場合
自営業は家族に手伝ってもらうケースも多いですが、家族に対する給与もしっかり支払う必要があります。ただし、家族の場合、財産隠しに利用されるケースがあるため、裁判所は慎重に調査を行います。
家族が労働していた実態が無い場合や、労働に対し不当に高額であった場合は財産隠しとみなされる恐れがあります。
管財事件に関与する破産管財人は経験豊富なプロですので、不審なお金の動きは敏感に察知し、詳しく調査を行います。財産隠しが発覚した場合、免責が受けられなくなるだけではなく、悪質な場合は罪に問われることもあります。
労働実態に見合った給与であれば問題はありませんので、正直な給与支払いを行いましょう。
自己破産における売掛金の扱い
納品やサービスは完了しているものの、取引先などからの報酬を翌月や翌々月に受け取る約束となっていて、まだ受け取っていない代金のことを「売掛金」と言います。
破産申立において、申立代理人の費用や裁判所への予納金の準備が必要となります。一般的には法人破産の場合、個人破産に比べると費用や実費など多くかかります。
通常、受任通知後には売掛先に対し申立代理人が管理する口座に振り込み先を変更する旨通知するなどし、申立に必要な資金を確保します。また、申立代理人は売掛金以外の財産も保全し、迅速かつ適切に管財人に引き継ぐことになります。
【破産手続開始決定前に発生し、破産手続開始決定後に回収することになった売掛金】
例えば、7月1日に発生した売掛金について、8月1日に振り込まれる約束になっており、破産手続開始決定が7月10日だった場合、その売掛金は破産管財人に渡すことになります。破産管財人は本人に代わって債権を回収し、破産財団に組み入れます。
【破産手続開始決定後に発生した売掛金】
破産しても事業継続可能な職種だった場合、破産手続き開始決定後に売掛金が発生することもあるでしょう。これについては、「新たに取得した財産」として、破産に関係なく、自由に使うことができます。
自営業者が自己破産する場合の「管財事件」について
自営業者が自己破産する場合、2種類ある自己破産の手続きのうち「管財事件」となることが一般的です。
自己破産手続きには「同時廃止」と「管財事件」の2種類があり、裁判所がどちらが適切か判断して振り分けます。
このうち、「同時廃止」事件とは、財産がなく単純な事例で、破産管財人が選任されないため、裁判所費用も2万円程度と安くなっています。
他方、「管財事件」は、財産があったり、事案が複雑だったりする事件で、破産手続きのプロである破産管財人が裁判所によって選任され、財産の管理・処分や免責の調査などを行います。
自営業者の場合、後者の管財事件となることが一般的です。その理由としては、機材や施設・在庫などがある場合は、処分すべき財産が高額になりやすいことが挙げられます。
その他にも、複数の契約が絡み合っていて、それらを丁寧に調べながら清算を行う必要があること、自営業の場合は事業用財産と私的な生活用財産の区別があいまいなことが多いことなども、自営業者の自己破産が管財事件になりやすい理由です。
なお、自己破産手続を事前に弁護士に依頼しておくと、管財事件の中でも「少額管財」という、比較的費用の安い手続きが利用できる可能性もあります。弁護士費用を加味しても少額管財のほうが安くつく可能性があるので、自営業で自己破産を考えている方は、事前に弁護士に相談されることを強くお勧めします。
自己破産後も事業を継続するための方法
エンジニアやデザイナー、ライターなど、高価な事業用資産を持たなくとも事業が継続できる業種であれば、自己破産後も仕事を続けることができるかもしれません。また、事業の継続に必要な財産を自由財産として裁判所に認めてもらい、事業を続けることが可能なケースがあります。
【仕事の性質上、事業所や在庫が不要な業種】
近年は「ノマドワーカー」というように、事業所や在庫を持たず、パソコン一つで、図書館やカフェなどで事業を行うケースが増えています。コロナ禍でリモートワークが増え、会社への出勤が必須でなくなったことも追い風となっています。このような働き方が可能な職種の場合、自己破産をしても事業に与えるダメージが少なく、事業継続しやすいと言えます。
自己破産が事業以外に与える影響
自己破産が事業以外に与える影響については、主に「財産への影響」「信用情報への影響」「連帯保証人への影響」「家族への影響」があります。
財産への影響
自己破産をすると一定額以上の財産が破産管財人により処分・換価されます。マイホームはほとんどの場合処分対象となりますので、持ち家に住んでいる場合は、引っ越しをしなくてはなりません。
ただし、車は中古車としての処分価格が20万円以上である場合に処分対象となります。高級車やレアな車種、特殊な車両などを除き、多くの車は何年か使い続けていれば売却価格が20万円を下回りますので、手元に残せる可能性があります。
信用情報への影響
自己破産をすると一定期間(7年程度)新たな借金やクレジットカードの使用ができなくなります。これは、信用情報機関という、個人のお金に関する信用情報を記録している期間に自己破産の情報が登録されてしまうからです。これを俗にブラックリストと言います。
他業種に就職して結婚し、マイホームが欲しくなっても、自己破産から7年経たないと審査に落ちてしまいますので、注意が必要です。
連帯保証人への影響
借金をする際に、債権者から保証人や連帯保証人を付けることを求められることがあります(通常は連帯保証契約が多いので、以下連帯保証人とします)。
この場合、自己破産をすると連帯保証人に請求が行ってしまいます。連帯保証人が請求に応じられる資力がなかった場合、自分だけではなく、連帯保証人も自己破産などの債務整理をすることになります。
そのため、自己破産手続きの前に連帯保証人には必ず連絡を取り、事情を説明したうえで、必要な対応をお願いしましょう。
家族への影響
それ以外の影響としては、自己破産する人の名義の家に家族も同居していた場合は、家が処分換価の対象となるため、家族も引っ越す必要があります。しかし、自己破産の効力は原則として本人にしか及ばないため、もとから家族名義の家に住んでいた場合は問題なく住み続けることができます。また、家族の所有する財産が処分換価されることもありません。
信用情報についても、ブラックリスト入りするのは本人の信用情報だけで、家族に影響が及ぶことはありません。
自営業者の自己破産は事前に必ず弁護士に相談を
自営業者の自己破産は、サラリーマンにはない様々な注意点があります。しかし、業種や自己破産手続の方法によっては、リスクやデメリットを抑えて、事業を継続しながら自己破産ができる可能性があります。
自営業者が自己破産をする際は、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。弁護士に相談することでご自身のケースにおける具体的な注意点を踏まえることができ、スムーズに免責を受けられる可能性が高まるほか、手続きの内容によっては弁護士に依頼しないでいるよりも費用が安く済む可能性があります。まずは、無料の法律相談を利用してみましょう。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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