自己破産しても原則として仕事には影響しませんが、一部の仕事には手続き中に職業制限がかかる事には注意が必要です。自己破産をしても原則として会社に知られることはなく、自己申告する必要もありません。また、自己破産を理由に解雇することは不当解雇に当たります。制限職種の場合でも、手続きが終われば元通りの仕事に就くことができます。
自己破産によって職業が失われてしまう?
自己破産をしても、基本的には今まで通り仕事をすることができ、自己破産を勤め先に知られることもありません。ただし、一部の職業については、自己破産の手続期間中、職業制限がかかるので注意が必要です。
自己破産は、債務が支払えなくなった人の生活を立て直すための法律上の制度です。そのため、生活に必要な収入源である仕事は、これまで通り続けていかれることが原則となっています。今までの仕事を辞める必要はありませんし、一部の例外を除き、会社に知られることもありません。また、勤め先に自己破産を申告する義務もありません。
ただし、弁護士や生命保険の募集人、警備員など、他人の財産を預かるような仕事については、自己破産の手続期間中は一定の職種に就くことが制限されている職業があります。とはいえ、これらの職業制限についても、免責許可決定が確定すれば復権しますので、再び就くことができます。
職業制限がある仕事
自己破産手続中に職業制限がある仕事としては、弁護士や社会保険労務士などの士業、生命保険の募集人、警備員、質屋、旅行業取扱管理者など様々な職種があります。破産開始決定から復権するまでの期間、これらの仕事をするために必要な登録をすることができなくなります。職業制限がある期間は3ヶ月から半年程度ですが、ケースにもよります。
大まかにいうと、職業制限がつく仕事は以下の職種に分けられます。
目次
一部の士業
弁護士、税理士、社会保険労務士、建築士など
金融関連業
貸金業者、生命保険の募集人、質屋など
団体企業の役員
商工会議所や金融商品取引業、日本銀行など
一部の公務員
都道府県の公安委員会、教育委員会、公証人、人事院の委員など
それ以外の職業
旅行業取扱管理者、警備員、探偵業、騎手など
意外に思われるような仕事があるかもしれません。ご自身の仕事が制限職種に当てはまるかどうかは、ネットで「職業名 自己破産」などで検索をかけてみてください。それでも不明点がある場合は、弁護士事務所の無料相談に問い合わせてみましょう。
一覧表の記載されている職業はごく一部です。他人の財産を預かる業務が含まれる場合は、自己破産による制限職種ではないか、一度確認したほうがよいでしょう。
職業制限は手続きの期間のみで、無事に免責の許可が出ることで、「復権」します。復権とは「もうあなたは破産者ではなくなりました」という意味で、復権により職業制限が解除され、再び同じ仕事に就くことが可能です。
免責とは借金をゼロにする重要な制度で、きちんと書類を作成して裁判所に提出し、裁判所に嘘をつかずに誠実に受け答えしていれば、ほとんどの人は免責許可を受けられます。ただ、まれに免責不許可となるケースもありますので、スムーズに免責を受けるために、裁判所の手続きには襟を正して臨みましょう。
自己破産すると会社に連絡が入るのか?
原則として、自己破産をしても会社や勤め先に連絡は行きません。例外的に、以下のケースでは勤め先に連絡が入ります。
- 会社が債権者である場合(会社から借り入れをしている場合等)
- 会社の労働組合を通じて労働金庫から借金をしている場合
- 公務員で、共済組合から借金している場合
これらのケースに当てはまらない場合、自己破産を会社に知られることはありません。また、自己破産をしたことで裁判所から給与の差し押さえを受けることも、原則としてありません。
自己破産が官報に掲載されることで会社に知られるおそれはある?
自己破産をすると政府の機関紙である「官報」に自己破産した人の住所・氏名が掲載されますが、この官報から自己破産したことが広まってしまうおそれは非常に低いと言えます。
その理由としては、官報は行政機関の休日を除く毎日発行され、大量の情報が掲載されます。内容も読み物として面白いものではないので、ほとんどの人が読んでいません。
例外的に、金融業や不動産業、税務署など公務員の一部が職業的に官報を見ていますが、一般の職業の人が日常的に官報を読んでいて、そこから自己破産が知られるという可能性はほとんどないでしょう。
自己申告は必要?
自己破産をしても原則として会社に申告する必要はなく、黙って仕事を続けても何らかの法律違反には当たりません。また、就職や転職の活動時に自己破産したことを明かす必要もありません。例外として、先述した制限職種に当てはまる場合は、手続き期間中は仕事ができなくなるので、そのことを勤め先に報告する必要があります。
自己破産をしたことを理由に会社をクビになることはありません。自己破産はその人個人の事情によるもので、会社に対する背信行為ではないからです。仮に、自己破産をしたことが会社に知られ、それを理由に解雇された場合、不当解雇に当たります。
自己破産後から職業制限を受ける期間
自己破産手続開始から職業制限を受ける期間としては、一般的なケースでは3~6か月程度ですが、それぞれの事情によっても異なります。ケース別に職業制限の期間についてまとめました。
(1)財産がなく、ギャンブルや浪費が原因の借金ではなく、単純な事案の場合
この場合、「同時廃止」と言って、通常の手続きより簡易でスピーディーな手続きになります。日本弁護士連合会が2020年に破産事件について調査したデータによれば、2020年に同時廃止になった破産事件は全体の68.55%と、7割近くにのぼります。
出典:「日本弁護士連合会 2020年破産事件及び個人再生事件記録調査【報告編】((https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/books/data/2020/2020_hasan_kojinsaisei_1.pdf) 9ページより引用」
同時廃止事件の場合、破産開始決定から免責決定までの平均日数は68.12日であり、2か月あまりとなっています。また、破産開始決定から免責決定までの期間は、4か月未満が93.39%で、ほとんどのケースで3~4か月程度で復権していることが分かります。
出典:「日本弁護士連合会 2020年破産事件及び個人再生事件記録調査【報告編】((https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/books/data/2020/2020_hasan_kojinsaisei_1.pdf) 9ページより引用」
(2)財産がある場合や、ギャンブルや浪費が原因の借金の場合、その他複雑な事情がある場合
この場合、「管財事件」と言って、破産管財人が選任される通常の手続きとなります。この手続きになった場合は、破産開始決定から免責決定までの期間は6ヵ月から、長い場合は1年程度かかることがあります。
(3)自己破産手続きをしたのに免責許可が出なかった場合
例外的な事例ですが、免責が不許可になった場合は復権ができず、職業制限が解除されません。このケースでも以下の条件を満たせば、復権することができます。
①債権者全員の同意のもとに破産手続きの廃止が確定
免責がおりなくても、破産者が破産手続きの廃止を求め、債権者全員がそれに同意してくれた場合は、復権します。ただ、債権者がお金が返ってこないのに同意することは考えにくく、現実にはあまりないケースといえます。
②個人再生を申し立て、再生計画の認可決定が出た場合
自己破産で免責されなかった場合、個人再生の手続きをして再生計画が裁判所に認可されれば、破産者ではなくなり、復権します。ただし、この場合は、復権まで時間がかかります。
先程引用した日本弁護士連合会の調査によると、個人再生申立から開始決定までの期間は平均41.6日、開始決定から認可決定までは114.96日で、約157日かかります。約5~6ヵ月程度という期間ですが、実際には事前に様々な書類を取り寄せ・作成したり、弁護士と相談したりする必要があり、全体で1年以上かかることも珍しくありません。
③破産詐欺罪で有罪にならずに10年が経過
自己破産して免責許可が降りなくても、特に何もせず、破産詐欺罪で有罪になることもなく10年経てば、自動的に復権できます。
このように、免責許可が出なくても復権できますが、現実的な手法ではなかったり、長い時間がかかったりするので、きちんと手続きをとって免責を得ることが、最良にして最短の方法と言えます。
職業制限のない債務整理の方法
現在お勤めの職業が、制限職種にあてはまり、自己破産が難しいという場合、「任意整理」や「個人再生」と言った他の債務整理により、借金の負担を軽くすることが可能です。
自己破産は借金をゼロにできる強力な手続きで、処分対象となる財産がない場合は特に魅力的な方法ですが、制限職種の方の場合、自己破産手続き期間中の3ヶ月~6か月程度、それまで通りに仕事に就くことができません。
企業にお勤めの方であれば、申告して別の部署に配置換えをしてもらうといった対応も可能ですが、個人事業主や、小規模な企業に勤めていて代替要員がないケースなどもあります。こうした場合、自己破産をすると事業が立ち行かなくなってしまいます。
こうした場合でも、任意整理や個人再生の手続きをとることにより、借金の負担を軽減できます。
①任意整理
弁護士が私的に貸金業者等の債権者と交渉して、利息のカットやリスケジュールを行い、借金の負担を軽減する手続きです。裁判所を通さないため面倒な書類の作成・提出がなく、希望すれば同居の家族にも内緒で借金を整理することが可能です。
原則的にはすべての債権者を対象に行うものですが、勤務先や友人から借金をしている場合は整理の対象から外すといった柔軟な対応も可能です。
とはいえ、私的な交渉なので、あまり大幅な債務の減額は望めません。原則として、借金の元本は減額されず、3-5年程度の分割払いで支払う必要があります。また、依頼する弁護士の腕によっても減額幅が左右されるため、慎重に弁護士を選ぶことをお勧めします。
②個人再生
裁判所を通した手続きで、借金総額を5分の1~最大10分の1に大幅にカットできます。自己破産のような職業制限はなく、また、財産を裁判所に換価処分されることもありません。
ローン付きの住宅に住んでいる場合、「住宅ローン特則」を利用して、マイホームに住み続けたまま借金を大幅に減額することも可能です。
メリットの多い手続きですが、裁判所に提出する書類が多く、自治体等から取り寄せたり、家計簿をつけて作成したりするなど、様々な手間暇がかかります。そのため、事前に弁護士に依頼するのが一般的です。
債務整理の弁護士選びについて
弁護士選びは、事前の無料法律相談を利用するなどして慎重に選んだほうが良いでしょう。近年、債務整理に関しては、多くの法律事務所が無料で相談に応じています。
債務整理は、自己破産・任意整理・個人再生のいずれの方法を選ぶにしても、事前に弁護士に相談することをお勧めします。法律上、これらの手続きは本人だけでもとることが可能ですが、法律の専門家の助言や指導を受けることで、失敗なくスムーズに借金整理を行うことができます。
また、借金を滞納している場合、債務整理を弁護士に正式に依頼すると、以降、取り立てや督促がストップします。
最近、ニュースなどで、債務整理に関して弁護士とトラブルになるケースが取り沙汰されています。ほとんどの弁護士の多くは依頼人のために誠実に職務を遂行していますが、中には問題のある弁護士がいることも事実です。
複数の法律事務所に問い合わせてみて、よさそうだと思った法律事務所に依頼することも可能です。また、個人的な親交がある友人に聞いてみて、評判の良い法律事務所を探すのもよい方法です。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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