自己破産における免責について、わかりやすく解説します。免責がどのような制度で、どんな効果があるか、手続きの種類やおおよその期間、費用、免責されない債権や、免責不許可事由についてまとめました。免責不許可事由がある場合でも、裁量免責により免責が認められるケースがあります。
自己破産における免責とは何か?
免責は、所有する財産を換価し、配当を行っても残った負債については支払いを免除されるという強力な手続きです。裁判所に免責が認められれば、どれほど高額の借金であっても、沢山の債権者がいても、以後は1円も支払わずに済みます。免責は、自己破産におけるもっとも重要な手続きです。
自己破産は、手続きをすれば誰でも免責が受けられるというわけではありません。「免責不許可事由」という、法律上、免責を不許可とするケースに当てはまる場合は、免責が認められないことがあります。
免責不許可事由として有名なのは、ギャンブルや浪費が原因の借金や、自己破産手続きの際に財産状況を正直に申告せずに財産隠しをしていたケースなどです。
しかし、免責不許可に当てはまるケースでも、裁判官が免責を認めるという判断をすれば、免責が認められることがあります。これを裁量免責と言います。実際には、自己破産の申し立てをする人の多くが免責を認められています。
免責は強力な法律効果を発生させるかわりに、借金の理由や、債務者の裁判所に対する態度などが影響する、デリケートな手続きです。自己破産の際に免責不許可とならないように、免責について学びましょう。
免責の趣旨と効果
免責は、債務者の経済生活の再生を図るという破産法1条の目的にのっとり、個人の破産者について、破産手続き後配当を行っても残った債務を免除する手続となっています。
本来、「破産」という制度は、破産者の財産を、裁判所によって選ばれた破産管財人が処分・換価して、それによって得られた金銭を債権者に配当する手続きのことです。配当が終了すると、会社などの法人は消滅します。支払いきれない債務が残っていても、請求すべき法人が無くなってしまうので、債務もともに消滅します。
しかし、自己破産の場合は、個人が破産者となるので、債務とともに消えてしまうわけにはいきません。元々、破産法の目的は、借金で困窮した人が自ら命を絶ったりせず、再び人間らしい人生を送れる機会を提供することです。そのため、個人に対しては、破産手続きが終わった後は、残りの債務については免除する手続きが用意されています。それが「免責」です。
・財産がない、免責不許可事由もない人の自己破産手続き「同時廃止」
実際には、個人の破産者はお金になる財産を持っていない人も多いです。破産をしても、生活に必要な家具や家電、20万円以下の財産などは手元に残ります。それ以外の財産は破産管財人により処分・換価されることになりますが、財産がない場合や免責不許可事由がない場合は、そもそも破産管財人が選任されることはありません。
そのため、上記の人向けの手続きとして「同時廃止」という制度が設けられています。破産管財人を選任せず、破産手続きの開始と同時に破産手続きが廃止されます。破産管財人に報酬を支払わなくて済むので費用が少なく、免責までの期間も短くなっています。
財産があり、破産管財人が選任され、処分・換価が行われる手続きを「管財事件」と言います。
【免責の効果】
免責許可決定確定後、破産者は非免責債権を除く債務の支払いが免除されます。
破産者の資格制限が解除される(当然復権)
破産手続きをすると、警備員や社会保険労務士など、資格を必要とする一定の職業に就くことができなくなります。しかし、免責許可決定が確定すると、当然復権の効果が生じ、資格の制限が消滅しますので、再び資格を使った仕事をすることが可能になります。
免責の手続き
自己破産及び免責の手続きには、大きく分けて①同時廃止事件、②管財事件、2種類があります。また、多くの裁判所では管財事件には少額管財という区分を設けていて、裁判所(管財人)に収める予納金が少額に抑えられ利用しやすい制度に取っています。
破産手続と免責手続は、本来は別個の手続きですが、二つの手続きは同時に申立てがなされ、ほぼ同時並行で手続きが進みます。
①同時廃止事件
日本弁護士連合会によると、自己破産のうち7割は同時廃止の手続きを取っています。同時廃止は破産手続の申し立てから免責までの期間が3~4か月程度と短く、また裁判所に支払う費用が2万円程度、弁護士に依頼しても合計で40万円程度と安く済みます。
以下のいずれかに該当する場合、管財事件になります。(東京地方裁判所の場合)
- 現金33万円以上、その他の財産が20万円以上ある。
- 免責不許可事由がある。
- 不動産を所有している。
- 自営業者(直近で自営業者)である。
- 借入金の額が多額である。
東京地方裁判所では、同時廃止と管財事件の割合が半々となっており、一方、遠隔地の裁判所では約90%が同時廃止事件と言われています。
なお、借金に困窮して、弁護士に支払うお金がなくとも、分割払いが可能な法律事務所もあります。そのため、弁護士に依頼して自己破産を行うことは可能です。
②少額管財事件
一定額以上の財産がある場合や、借金の理由が免責不許可事由に当たる場合は、裁判所は管財事件として、破産管財人を選任して、財産の処分・換価や自己破産に至った状況を調査します。破産手続の申し立てから免責までの期間は3~6か月程度となり、また裁判所に支払う費用が最低20万円程度、弁護士に依頼すると合計で60万円程度かかります。
少額管財事件で注意が必要なのは、事前に弁護士に依頼せずに一人で破産手続きをしていた場合、少額管財事件ではなく③の通常管財事件となることです。通常管財事件となると、裁判所に支払う費用が50万円以上となり、期間も長くかかります。そのため、少額管財事件になりそうな場合は、前もって弁護士に相談し、自己破産を依頼することを強くお勧めします。
免責されない債権とは?
税金や社会保険料のような国に納めるお金、個人事業主の場合は従業員に対する給料・報酬などは、非免責債権と言って、破産手続きを行っても免責されないため、そのまま支払い続けなければなりません。
どのような債権が非免責債権となるかについては、破産法253条に定めがあります。
【破産法第253条より(一部要約・抜粋)】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。1 租税等の請求権
2 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
3 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
4 次に掲げる義務に係る請求権
イ 夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 子の監護に関する義務
ニ 扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
5 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
6 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
7 罰金等の請求権
・2、3の不法行為による損害賠償請求権について
不法行為による損害賠償請求権のすべてが非免責債権となるわけではなく、例えば、運転中に軽い過失で建物にぶつかってしまい、物的損害を発生させた場合には、その損害賠償請求権は免責の対象となります。
不法行為による損害賠償請求権が非免責債権となるには、以下の2つのどちらかが当てはまることが条件となっています。
- 「悪意による不法行為に基づく損害賠償義務。
- 故意または重大な過失により、人の生命や身体を侵害した不法行為に基づく損害賠償義務。
これらの不法行為は、悪質であったり、被害の結果が重大であったりするため、破産をして免責とするのはふさわしくないと考えられています。そのため、破産手続後も損害賠償請求権はなくならず、支払いを続けなくてはなりません。
免責が許可されないケースとは?
破産した理由や、破産手続きの際の破産者の態度によっては、免責不許可事由に当てはまり、免責が受けられなくなることがあります。免責不許可事由とは、「このような人に免責をしなくともよいだろう」と考えられる行為で、破産法252条1項に細かく規定があります。概要をご紹介します。
1 財産隠し
自己破産による財産の没収を免れるために、財産を隠匿したり、逆にわざと壊したりするなどの行為です。
2 不当な債務負担、廉価処分
例えば、クレジットカードで商品(新幹線の回数券、高額な腕時計など)を購入し、直ちに処分して換金する行為。
3 偏波弁済
特定の債権者に対してだけ弁済を行うことを偏波弁済と言います。例えば、破産手続きの準備中に、友人に対する少額の借金だけを先に返済してしまう行為です。
4 ギャンブルや投資、また浪費を原因とする借金
株やFX取引などの投資、パチンコ・競馬等のギャンブル、風俗店通い、その他の遊興による無駄遣いで作った借金もこれに当たることがあります。
5 詐術による信用取引
破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から、破産手続開始の決定があった日までの間に、借金が支払えない状態であることをわかっていながら、収入などを偽って借り入れを行うことを言います。
6 帳簿や書類の改ざん
業務や財産の状況に関する帳簿、書類などを隠滅したり、偽造・変造したりする行為です。
7 虚偽の債権者名簿
破産手続きの際は、債権者の一覧を記した名簿を提出しますが、一部の債権者だけを書かないなど、内容に虚偽があったことです。
8 調査協力義務違反行為
破産手続中に裁判所又は破産管財人が行う調査において、説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりすることです。
9 管財業務妨害行為
破産管財人が行う財産の管理・処分・換価などの業務に対し、破産者は協力しなければならない義務があります。この義務に違反し、不正な手段で、破産管財人などの職務を妨害する行為を指します。
10 免責を受けてから7年経過していないこと
過去に自己破産をして免責許可決定が確定した日から7年を経過していないと原則的には免責を認めてもらえません。
【免責不許可事由に当てはまっても裁量免責がある】
現実問題としては、ギャンブルや無駄遣いが原因の借金でも、破産管財人や裁判官に真摯な態度で接することで、多くの人が裁量免責による免責が受けられています。
裁量免責は、裁判官や破産管財人が破産者から話を聞いて、「この人なら免責をすれば人生を立て直せるだろう」と判断して、自分の裁量により免責をすることです。
前回の自己破産から7年経っていなくとも、裁判官が再び破産するのもやむをえない状況だと判断すれば、免責が認められるケースもあります。
2020年以降は特に、コロナ禍により経済が大きく混乱しています。コロナの後遺症で働けなくなったり、コロナ禍の影響を強く受けて収入が減ったりした場合、裁量免責により、7年以内の2度目の免責が認められるケースもあることでしょう。まずは弁護士に相談し、ご自身のケースで免責が認められるかどうか、検討されることをお勧めします。
このように、借金の理由や自己破産のタイミングについては、事情により裁量免責が認めてもらえることも多いです。しかし、財産隠しや詐術などを用いた不正な手続、破産管財人への業務を妨害するなど、破産手続きに対する態度が悪かったケースでは、免責が不許可になる可能性が高まります。破産手続きには真摯な態度で臨み、正直な手続きを行い、裁判官に良い印象を持たれるようにしましょう。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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