少額管財とは、自己破産における手続きの一種で、破産管財人への報酬を低くおさえつつ自己破産ができる制度です。少額管財を利用することで、スピーディーで比較的低コストな自己破産が可能となります。少額管財手続を行うためには弁護士に依頼する必要があります。
目次
少額管財事件とは?
少額管財事件とは、自己破産の手続きのうち管財事件において、手続きに必要となる引継予納金の金額を大幅に抑えられる制度です。
自己破産を申立てると、大きく分けて「管財事件(通常管財・少額管財)」「同時廃止事件」の2つの種類に振り分けられます。
1 管財事件(通常管財)
裁判所から破産管財人(弁護士)が選任され、申立人の財産の調査や管理をし、最終的に財産を処分して債権者へ配当を行います。また、借金の理由がギャンブルや浪費など免責不許可事由が主な場合、免責調査も行います。
2 少額管財事件
実務上運用が認められている制度で、管財事件の一種ですが、裁判所に納める引継予納金は、基本的に20万円となっています。少額管財は比較的処理がしやすい管財事件において認められる制度で、通常の管財事件よりも低コストで手続きが可能です。そのかわり、事前に代理人として弁護士に委任することが必須となっています。
3 同時廃止事件
破産者の財産が20万円以下である場合や、破産申立に至った事情等に特に問題がない場合、裁判所は破産管財人を選任せずに、破産手続を開始すると同時(破産開始決定)に、手続きを終了(廃止決定)することです。
簡易的な手続きで費用も安く済むことが特徴です。裁判所にもよりますが、申立てにかかる費用は5万円前後で済むでしょう。
自己破産は、同時廃止手続によるのがもっとも安価ですみます。しかし、ご自身のケースでは同時廃止が難しそうな場合、少額管財事件になることで、手続き費用を抑えることが可能です。
管財事件であっても、申立費用を抑えて手続きができる少額管財は、東京地方裁判所など全国の多くの都道府県の裁判所で運用されています。(一部少額管財の運用をしていない裁判所もあります)
※予納金と引継予納金
予納金とは、自己破産手続きの申し立て時に裁判所に支払う費用で、破産管財人に対する報酬のほか、官報公告費や手数料、郵便切手代などを含みます。引継予納金とは、主に破産管財人の報酬に充てられる予納金の事で、代理人弁護士に預けた後、破産管財人へ引き継ぎます。
少額管財手続となるのはどういう判断がされた場合?
「同時廃止」「通常管財」「少額管財」のいずれの手続きによるかを自分で選ぶことはできず、自己破産を申し立てた際、債務者の財産や債務総額、借金をした原因等をもとに裁判所が判断します。自分自身で判断することができませんので、事前に弁護士に相談して申立を行うことが重要です。
1 事前に弁護士に委任していること
少額管財事件として手続きされるためには、弁護士が代理人に選任されていなくてはなりません。専門家である弁護士に自己破産手続きが委任されていることにより、手続きの簡略化・迅速化が可能になり、その結果、裁判所に納める引継予納金を低コストにおさえることができるからです。弁護士を立てず、個人で申立てをすると通常管財事件となります。
同じ法律の専門家でも、自己破産手続を司法書士に依頼した場合は、少額管財事件の対象とはなりません。その場合は、通常の管財事件となります。少額管財手続を希望する場合、弁護士に頼む必要がありますので、注意してください。
2 申立て前にある程度まで財産調査が済んでいること
弁護士に自己破産手続を依頼することで、申立て前までにある程度、財産の調査が進みます。そのため、申立て後に裁判所が選任する破産管財人の負担が軽くなり、費用を安くおさえられます。
少額管財の2つの特徴
少額管財には、「管財事件に比べ、低コストでスピーディー」「事前に弁護士を選任する必要がある」という特徴があります。
法律上、少額管財という制度が明記されているわけではないのですが、東京地方裁判所や東京の3つの弁護士会が協力して、平成11年から運用が開始されました。
1 管財事件に比べ、低コストでスピーディー
少額管財は、裁判所への申し立て費用と弁護士に依頼する費用を合わせても総額50万円ほどで手続きすることができ、手続きにかかる期間も比較的短くできます。通常の管財事件の場合、70万円ほどの費用が必要で、事案によっては費用も期間も長くかかります。
2 事前に弁護士を選任する必要がある
少額管財では弁護士に頼むことが必須となりますが、弁護士に相談・依頼することは、債務者にとって多くのメリットがあります。以下にご紹介します。
・法律相談により自己破産以外の選択肢も検討できる
負債が膨らんで、もはや自己破産しかないと思っていても、収入の状況などによっては任意整理や個人再生といった、より社会的影響の少ない債務整理手続きで借金問題を解決できることがあります。自己破産という選択が適切かどうか判断するためにも、専門家に相談されることをお勧めします。
・自己破産手続きの準備や負担を減らせる
自己破産するためには、裁判所に提出するために多くの書類を作る必要があります。法律的な書類は難しい言い回しも多く、個人では困ってしまうことも考えられますが、法律家のサポートがあれば効率的に、間違いなく進められます。
・手続きを有利に進めやすくなる
個人で債務や財産の調査を行うよりも、弁護士が介入して調査を行うほうが、より正確な調査ができると裁判官は考えます。その結果、自己破産手続きがスムーズに進んだり、免責が認められやすくなったりするなどのメリットがあります。
同時廃止・少額管財・管財事件にかかるおよその費用と期間
弁護士に依頼する場合、同時廃止は30万円程度、少額管財は50万円程度、管財事件は70万円程度の費用がかかります。期間は、申立て前の準備期間は事案の複雑さに応じて1~半年程度、申立てから免責までにかかる期間は4~6か月程度となっています。
【同時廃止】
- 費用:2~5万円程度
(弁護士か司法書士に依頼する場合は上記に加え23~28万円程度必要) - 準備期間:1か月~半年程度
- 申立~免責までの期間:4か月程度
【少額管財】
- 費用:50万円程度
(内訳・弁護士費用28万程度、裁判所に支払う費用22万円程度) - 準備期間:1か月~半年程度
- 申立~免責までの期間:4か月程度
【管財事件】
- 費用:70万円以上
(内訳・弁護士費用20万~、裁判所に支払う費用50万円~) - 準備期間:1か月~半年程度
- 申立~免責までの期間:6か月以上
法人破産の少額管財の手続きと流れ
法人破産の場合の少額管財事件の手続きは、おおよそ以下のような流れで進みます。
①弁護士に依頼
弁護士と相談のうえ、自己破産手続きを依頼し、委任契約を締結します。
②破産手続きの準備
個人破産の場合には、まず受任通知が債権者に対して発送されますが、法人の場合緊急性が高いので、必ずしも受任通知が発送されるわけではありません。売掛金の回収、店舗やオフィスの明け渡し、従業員の解雇・退職手続きなどが、事業の規模や個別の事情に応じて行われます。
③書面の作成
弁護士の指導の下、登記簿謄本や報告書、財産目録などの必要書類を集め、破産手続開始申立書を作成します。
④取締役会の承認決議
法人の自己破産申立ての際は、取締役会の承認決議が必要となります。取締役会が設置されていない場合は、個別に取締役の同意を得ます。この際の議事録や同意書は、破産手続開始申立書に添付して裁判所に提出します。
⑤裁判所への申立て・即日面接・破産管財人の選任
当日~3日以内に裁判官と代理人の弁護士との間で面接が行われ、自己破産手続きの種類が決定します。また、その日のうちに破産管財人候補者が選出されます。
⑥破産手続開始決定・予納金の納付
申立てから1週間ほどで、破産手続の開始が決定します。破産管財人候補者は正式に破産管財人となり、申立人は引継予納金を破産管財人あての銀行口座に振り込みます。
⑦管財業務
破産管財人が、財産の保全、債権の回収、雇用関係の整理や賃貸借物件の明け渡しなどを行います。取締役は、管財業務に協力しなければなりません。
⑧債権者集会
裁判所にて、財産や負債の状況、手続きの進捗具合や今後の方針などを、債権者に説明します。
⑨配当手続き・裁判所による登記
管財業務完了後、残った金銭を債権者に配当します。その後、裁判所が法人の破産手続き終結登記を行います。
東京地方裁判所の運用
現実には、東京地方裁判所では、個人の自己破産及び中小企業の破産については、ほとんどのケースで同時廃止か少額管財によって処理がなされています。通常の管財事件となるのは、ある程度規模の大きな会社で、債権者数が多かったり、事案が複雑なケースに限られます。
また、少額管財の場合、東京地方裁判所では引継予納金を月5万円の分割払いにすることも可能になっています。
このように、負債に困った人が適切に自己破産手続きができるよう、配慮された仕組みになっていますので、心配せずに、まずは一度弁護士に法律相談をされることをお勧めします。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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