民事再生手続き上の共益債権とは、個人再生の手続きにのらず、全額支払わなければならない債権の1種です。代表的なものに個人再生手続き開始後の水道・光熱費の支払いがあります。個人再生をすれば債権は原則として減額されますが、例外として減額されない債権があります。共益債権のほか、一般優先債権、非減免債権についてもわかりやすく解説します。
目次
共益債権とは?
個人再生手続を行うと原則として借金が減額されますが、減額されないものがあり、再生手続開始後の家賃・水道代などは「共益債権」として減額されません。減額されない債権は3種類あり、共益債権はその中の1種類です。
・個人再生手続にかかわる債権
【原則】減額される債権→「再生債権」
【例外】減額されない債権→「共益債権」「一般優先債権」「非減免債権」
・債権、債務とは
お金を払う義務のことを債務、お金を受け取る権利のことを債権と言います。つまり、借金をした人から見ればお金の支払いは「債務」、お金を貸した人から見れば「債権」となり、表裏一体の言葉なのです。
・個人再生の流れと共益債権
個人再生は、借金などの債務を抱え困っている人を救済するための債務整理手続きの一つで、個人再生手続きを行うと、原則としてすべての債務が減額の対象となります。
個人再生は、強力な分、裁判所を通した厳密な手続きが必要になります。この手続きにのった債務は、いったん、支払いを禁止されます。個人再生手続が終わると、減額された債務の支払いが再スタートします。
しかし、この手続きにのると困ってしまう債務も存在します。家賃や光熱費などは、支払いが禁止されると、住んでいる家を追い出されたり、電気・水道・ガスなどがストップしたりしてしまいます。個人再生を申し立てた人は、ただでさえお金に困っているのに、生活が立ち行かずにさらに困惑することになります。
また、裁判所への再生手続申立の際、個人再生委員という、再生手続に必要な仕事をする弁護士選ばれることがあります。(※個人再生委員は、東京地裁の場合は、必ず選任されます。)この個人再生委員への報酬も、減額するわけにはいきません。
このように、個人再生手続に組み込まれては困る債務については、最初から手続きに入れない処理がなされます。この手続きにのらない債権のことを「共益債権」と言います(民事再生法121条)。共益債権のほかに、「一般優先債権」という債権もあり、この二つは再生手続きに入りません(民事再生法122条)。
また、再生手続きには組み込まれるものの、最終的に減額はされない「非減免債権」という債権もあります。
民事再生手続き上の共益債権の取り扱い
民事再生手続きでは、「共益債権」と「一般優先債権」は手続きに組み込まれず、民事再生をする・しないにかかわらず、全額支払わなくてはなりません。「非減免債権」は手続きには加わるものの、減額はされません。これら3つ以外の債権は、「再生債権」として減額の対象になります。
まとめると、個人再生手続きにおいては、以下の4つの債権が存在することになります。
このうち、共益債権とは、個人再生の際、利害関係人全体の利益になるような債権については、減額対象とはせずに債務者に支払い続けてもらおうという趣旨の制度です。
個人再生には、「債権者平等の原則」というルールがあります。個人再生は、借金が全額免除となる自己破産とは違い、減額されても借金自体は残ります。その際、債権者すべてが平等に扱われ、その債権の割合に応じて減額された借金を受け取るように取り扱われます。特定の債権者だけが、抜け駆け的にすべての支払いを受けることは許されません。
しかし、全額の支払いを続けたほうが、個人再生の利害関係人全てにとって利益になるものもあります。再生債務者の家賃や水道料金のように、滞納すると生活の基盤が失われ、借金の支払いが続けられなくなってしまうものについては、支払ってくれた方が債権者や関係者全体の利益につながります。これを「共益債権」として、再生手続きから除外するのです。
一般優先債権・非減免債権とは
共益債権に似たものに、「一般優先債権」があります。他の債権よりも優先して支払うべき債権で、代表的なものは税金や健康保険料です。
減額されない債権の3種類目、「非減免債権」には、例えば交通事故の加害者となった際の損害賠償金があります。一般優先債権や共益債権と違って、個人再生手続きにのるので、一時的に支払いはストップしますが、最終的には全額を支払わなくてはなりません。
一般優先債権と共益債権の具体的な中身
どのような債権が共益債権や、一般優先債権となるかについては、原則として法律に定めがあります。再生手続きの際、これらに当てはまるのか不明な債権があれば、弁護士に問い合わせて確認してみましょう。
・共益債権
共益債権については、民事再生法119条に定めがあります。条文はわかりやすい言葉で書かれていないので、法律に詳しくない方が内容を確認するのは大変なことですが、ざっくりいうと、以下のものが共益債権となります。
- 家賃や水道光熱費など、再生債務者の生活や財産の維持に必要な費用
- 個人再生の裁判手続きに必要な費用
- その他、再生手続開始後に生じた費用で、やむを得ず支出が必要なもの
具体的には、このように定められています。
【民事再生法119条に定めのある共益債権(一部要約)】
- 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
- 再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
- 再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
- 個人再生委員等の費用・報酬及び報償金の請求権
- 再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
- 事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
- 再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの(前各号に掲げるものを除く。)
※事業継続の上で必要な支払い
再生手続き開始後、どうしても事業に必要で、少額債権を支払わなければならないことがあります。また、運送業におけるトラックのように、事業で必要不可欠な車のローンや作業用機械のリースの支払いなどは、全額支払わないと車や機械を没収されてしまい、仕事ができなくなってしまいます。このような債権については、裁判所の特別な許可を経て弁済が可能なことがあります。(別除権協定)
別除権協定は例外的なルールです。個人再生をお考えの方で、事業に必要で、ローンやリース中の財産をどうしても残したい方は、別除権協定が認められそうかどうか、あらかじめ弁護士に相談されることをお勧めします。カーローンについては、例えば「地方で交通が不便だから」と言った理由では、別除権協定が認められないことがあります。
・一般優先債権
一般優先債権は、民事再生法122条に規定があります。
【民事再生法122条に定めのある一般優先債権】
一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)は、一般優先債権とする。
一般優先債権とは、民法など民事再生法以外の法律で、他の債権に優先する権利が認められている債権のことです。
一般の先取特権については、民法306条に定めがあります。この条文はシンプルな表現なのでわかりやすいです。
【民法306条に定めのある一般の先取特権】
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
- 共益の費用
- 雇用関係
- 葬式の費用
- 日用品の供給
例えば、個人事業主でアルバイトを雇って仕事をしていた場合、アルバイトに対する未払い給料は一般の先取特権となります。
その他一般の優先権がある債権には、以下のものがあります。
- 住民税、所得税などの税金
- 国民年金、国民健康保険、社会保険料など
- 罰金
- 水道光熱費などの過去の滞納分
水道光熱費に関しては、個人再生手続き開始後の支払いについては「共益債権」となりますが、それ以前の滞納分については「一般優先債権」になります。分類は違いますが、どちらにしろ個人再生手続の対象にはならず、全額きちんと支払わなければならないことには変わりありません。
・一般優先債権と共益債権の効果
一般優先債権と共益債権は、再生手続き開始後も弁済が禁止されず、全額を支払わなくてはなりません。また、これらの権利を持つ債権者は、支払いが滞った場合、再生手続きが開始した後でも、原則として強制執行が可能です。
特に、税金の滞納がある場合は、最優先で支払う必要があります。税金を滞納している場合、個人再生手続きの途中であっても給与や財産を差し押さえられてしまう可能性があります。
非減免債権との違いは?
一般優先債権や共益債権と、非減免債権の違いは、非減免債権は個人再生手続きに組み込まれるため、支払いが一時的にはストップされるということです。また、他の再生債権と同様に、再生計画中は減額された分だけを分割払いすることになります。ただし、再生計画が満了したときに、残りの全債務を一括して支払わなければなりません。
例えば、再生債務者には全債務のうち非減免債権が100万円あり、再生計画では3年かけて全債務の20%を返済するという決まりになったとします。再生計画中は、3年かけて20万円を支払えばいいのですが、3年経って再生計画が満了すると、残り80万円を一括で支払わなくてはなりません。結局、100万円は全額支払わなければならないのです。
ただし、非減免債権は一括返済までに猶予が生じるので、個人再生手続きに関係なく支払いをしなければならない一般優先債権や共益債権よりも、再生債務者にとっては支払いの負担が軽減されると言えます。
非減免債権の具体的な中身
特に社会的に保護するべきとされる債権については、全額支払わなくてはならないという考えのもとに、例外的に民事再生法に定められた債権です。
例えば、暴力や窃盗などの不法行為によって誰かに損害を与えた場合、被害者には損害賠償請求権が発生しますが、この損害賠償金が再生手続きを行うことで、借金と同様に減額されてしまうのでは、社会正義に反します。民事再生法229条3項では、こうした債権を非減免債権として規定しています。
非減免債権は、個人再生手続きには参加するものの、最終的には減額されずに支払うことになります。
【民事再生法229条3項に定めのある非減免債権(抜粋)】
- 再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 次に掲げる義務に係る請求権
夫婦間の協力及び扶助の義務・婚姻から生ずる費用の分担の義務・子の監護に関する義務・扶養の義務
1及び2の不法行為については、すべての不法行為が非減免債権となるわけではありません。例えば、不法行為であっても、過失で車を隣の家の人の門柱にぶつけてしまった行為の場合、非減免債権にはならず、減額の対象となります。
不法行為にもとづく損害賠償請求権が非減免債権となるのは、以下のケースに限られます。
1 不法行為が悪意で加えられた場合
→悪意とは、他人を積極的に害する意思のことです。例えば、隣の人が憎くて、庭をめちゃくちゃにしてやりたくて車を門柱にぶつけた場合はこれにあたります。
2 故意または重大な過失があり、人の生命または身体を害した場合
→車庫入れの際、注意を怠ったせいで、隣の人に車をぶつけて怪我をさせてしまった場合はこれに当たります。
共益債権を再生債権として裁判所に提出してしまった場合どうなる?
共益債権として全額支払うべき債権を、うっかり再生債権として裁判所に提出してしまった場合、手続きが進行して、再生計画案を決議に付する旨の決定がなされた後であれば、共益債権の債権者は、共益債権であることを主張して再生手続きによらずに行使することはできないという判決が出ています。
平成25年11月21日 最高裁判所第一小法廷判決(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=83748)
(裁判要旨)「民事再生法上の共益債権に当たる債権を有する者は,当該債権につき再生債権として届出がされただけで,本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の付記もされず,この届出を前提として作成された再生計画案を決議に付する旨の決定がされた場合には,当該債権が共益債権であることを主張して再生手続によらずにこれを行使することは許されない。」
つまり、本来は共益債権であるものも、再生債権として処理される可能性があるということです。しかし、水道・光熱費のような一般的な共益債権が、このような処理をされることは考えにくいでしょう。(この判例で問題になったのは、船舶の売買契約の解除に際して発生した債権でした)
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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