グレーゾーン金利について、わかりやすく解説します。グレーゾーン金利撤廃による過払い金請求への影響や、グレーゾーン金利のより詳しい仕組み、みなし弁済規定とは何だったのかについて掘り下げます。2006年1月18日最高裁判決(シティズ判決)の概要も、法律知識がなくともわかるように説明します。また、現在のグレーゾーン金利の状況についても触れます。
目次
グレーゾーン金利とは?
グレーゾーン金利とは、貸金業者などが消費者にお金を貸し出す際、利息について、「利息制限法に定めた上限金利を超えているが、出資法に定めた金利の範囲内」という高金利で貸すことを意味しています。2010年6月18日に、法改正によりグレーゾーン金利は正式に廃止されました。
利息制限法に定められた上限金利は、借金の金額により15%~20%の範囲内と定められています。これに対し、出資法の上限金利は29.2%となっていました。利息制限法に違反しても刑事罰はありませんでしたが、出資法に違反すると刑事罰が科せられます。そのため、多くの貸金業者は29.2%に近い金利を設定してお金を貸し付けていたのです。
グレーゾーン金利の利息は、法律上「無効」な金利なのですが、かつては「みなし弁済」という規定により、貸金業者が受け取ることが「有効」となることが認められていました。しかし、みなし弁済規定を実質的に無効にするような最高裁判決が下されたため、法改正の動きが進み、2010年6月18日にグレーゾーン金利はなくなりました。
したがって、2010年6月18日よりも後に借金をした場合、グレーゾーン金利が発生することはありません。しかし、2010年6月17日までにした借金の場合、グレーゾーン金利で借りている可能性があります。
グレーゾーン金利でお金を借り、返済していた場合、本来ならば支払わなくてもいい利息まで余計に支払っていたことになります。この、利息制限法違反の分の払いすぎた利息を返してほしいと貸金業者等に請求することを、過払い金請求といいます。
グレーゾーン金利撤廃による過払い金への影響は?
グレーゾーン金利が2010年6月18日に撤廃されたため、この日以降にお金を借りた人には、過払い金が発生することはありません。また、グレーゾーン金利撤廃から10年以上が経過したため、過払い金請求権が時効にかかるケースが増えてきています。加えて、経営が厳しくなっていたり、倒産したりしている貸金業者も多いため、過払い金請求は早めに行うことをお勧めします。
(1) 2010年6月18日以降に借りた借金は過払い金請求ができない
少なくとも10年以上前から借金の経験がある人のみ、グレーゾーン金利でお金を借りている可能性があるため、過払い金請求が可能です。
昨今、過払い金請求のCMや、WEB広告などが頻繁にみられるため、借金を借りた人ならば誰でも過払い金請求ができるように錯覚されがちです。しかし、実際に過払い金請求が可能な人は借金経験のある人の一部です。
【いつ借金したか覚えていない場合でも過払い金請求できる】
自分が10年以上前から借金をしていたかどうか、はっきりしない場合でも、相手の貸金業者に問い合わせたり、お金の貸し借りの情報を管理する信用情報機関に問い合わせたりすることで、正確な借金の額や期日を割り出すことができます。情報開示請求は本人であれば、1,000円ほどの手数料で簡単に行うことが可能です。
<注意>2010年6月18日以前の借金でも過払い金が発生しないケース
・利息制限法の範囲で貸し付けていた場合
2010年6月18日以前に借金をした人でも、一部の貸金業者や、銀行・信用金庫、奨学金などからの借金の場合、利息制限法の範囲内の合法的な金利でお金を貸し付けているため、過払い金は発生していません。
・2007年以降に借りた場合
もう一つ、注意点としては、グレーゾーン金利でお金を貸し付けていた多くの貸金業者は、みなし弁済規定を実質的に無効化する2006年の最高裁判決のあと、2007年ごろから利息の金利を利息制限法の範囲内に引き下げる対応を取っています。
そのため、2007年以降にした借金の場合、利息制限法の範囲の金利で借りていたのか、グレーゾーン金利で借りていたのか、判然としないケースがあります。
この場合も、専門家への相談や、業者等への情報開示請求により、過払い金の有無と正確な金額が分かります。
(2)完済の日から10年経った借金は過払い金請求ができない
過払い金請求権は、法律の規定により、借金を完済した日から10年で時効により消滅します。グレーゾーン金利の撤廃から10年以上が経過したため、時効にかかる過払い金が増えています。
<例外>10年以上前に完済した借金でも過払い金が請求できるケース
借金を完済したのが10年以上前でも、それ以降も継続して同じ業者と借金のやり取りがあった場合、「一連の取引」とみなされて、過払い金が請求できることがあります。クレジットカードのキャッシングは、一連の取引と認定されやすいので、すべての取引について過払い金が受け取りやすくなります。一連の取引に当たるかどうかは法律上の判断なので、心当たりがある場合は専門家に相談されたほうが良いでしょう。
(3)経営が厳しい貸金業者や倒産する貸金業者が増えた
貸金業者は、グレーゾーン金利の撤廃以降、高い金利でお金を貸し付けることができなくなり、また顧客からの過払い金の返還請求に対応せざるを得なくなりました。そのため、経営が圧迫された貸金業者や、倒産する企業が増えています。これにより、以下の事態が生じています。
・過払い金の満額回収が難しくなった
貸金業者は経営が厳しいため、過払い金請求をされてもすんなり全額を返すケースは少なく、多くの場合は、返還する過払い金を少なくしようと交渉してきます。法律知識のない個人が過払い金請求をすると、交渉上手な貸金業者に有利に進められてしまい、返ってくる過払い金が大幅に減ることがあります。
法律家に依頼すると手数料を取られますが、過払い金の金額が高額であればあるほど、個人で請求するよりも多くの過払い金を取り返すことが期待できます。
・倒産した会社からは過払い金を取り戻せない
お金を借りた会社が倒産してしまった場合、過払い金の回収は難しくなります。
例えば、大手消費者金融の一つである武富士は2010年9月に更生手続きの申し立てを行いました。武富士に過払い金請求権を持っていた人で、2011年2月末までに手続きをした人には過払い金が返還されましたが、回収できた過払い金の金額は、元本の3.3%でした。現在は、武富士への過払い金返還手続きはできなくなっています。
時に近年は新型コロナウィルスによる不安定な世の中で、いつ企業が倒産してもおかしくありません。時効の問題とあわせて、過払い金請求は早めに手続きされることをお勧めします。
グレーゾーン金利の仕組みを解説
借金の利息の金利の上限を定めた法律には利息制限法と出資法の二つがあります。利息制限法の利率より高い金利で消費者にお金を貸すのは「無効」となりますが、罰則はありませんでした。一方、出資法違反の高金利には刑事罰が科せられます。
この利率より高い金利で利息を取った場合は、制限を超えた分は無効となり、支払う義務はありません。
しかし、かつては、消費者が利息制限法超過分の利息を任意に支払った場合は、業者に返還請求ができないとする規定がありました(利息制限法1条2項)。
※現在はこの規定は削除されています。
【貸金業法のみなし弁済規定】
かつては、貸金業法に、以下の条件を満たしていれば、利息制限法違反の高金利でも有効な弁済とみなすとする規定がありました。(貸金業法43条)
- 登録をした貸金業者であること
- 貸金業者が貸付の際に貸金業規制法の17条で定められた要件を満たした書面を交付していること。
- 返済毎に貸金業規制法の18条で定められた要件を満たしている書面を交付していること。
- 債務者が利息の支払いを利息として認識して支払ったこと。
- 債務者が利息の支払いを自己の意思に基づく任意の意思で支払ったこと。
みなし弁済規定は法改正の動きにあわせ、2009年12月に削除されています。
【出資法の上限金利と規制】
出資法の上限金利は、かつては金額にかかわらず29.2%となっていました。貸金業者がこれより高い利息を取った場合は、契約をしただけでも、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、又は両方を科されます。(出資法5条2項)。
出資法よりも高い金額でお金を貸し出す業者を、一般に闇金業者と呼んでいます。
【なぜ、グレーゾーン金利が存在したのか?】
貸金業者は、きちんと登録をすることで、行政による厳格な規制を受けます。その反面、登録をするメリットとして、登録をしていない者では受け取ることができないグレーゾーンの高金利を、有効に受領することができました。
グレーゾーン金利が許されていた背景には、貸金業者へ登録を促し、違法な業者が増えること防ぐという狙いがあったのです。
グレーゾーン金利の問題点
貸金業者がグレーゾーン金利による返済金全額を受け取ることが認められていたため、お金を借りた人が借金を返済しきれず、多重債務の借金地獄に陥り、多くの人が自己破産などの債務整理を行いました。また、最悪の場合は心を病んで自殺するなど、社会問題になりました。
出資法の上限29.2%というのは、かなりの高金利です。単純に計算すると、100万円を1年間借りたら利息は29万2千円、2年間借りたら58万4千円となります。2年返済では、借りた元本の半分以上もの利息を取られることになります。消費者にとっては大きな負担です。
しかし、貸金業者は親しみやすいCMをテレビで積極的に流すなどして、気安くお金を借りられるイメージを強調し、お金に困った消費者を誘い込んでいました。
グレーゾーン金利の撤廃
2006年1月18日に、債務者が事実上強制されて、利息制限法の上限金利を超える利息を支払っていた場合は、みなし弁済には当てはまらないとする最高裁判決が出ました。これ以降、金融庁は貸金業法を改正することを発表し、2009年12月にはみなし弁済規定は削除されました。また、出資法の規定も2010年6月18日には、利息制限法並みの金利に引き下げられました。
・2006年1月18日最高裁判決(シティズ判決)をカンタン解説
この判決の要旨を簡単に説明すると、以下のようになります。
- 貸金業者からお金を借りた人は、借金の利息について、利息制限法を超える高金利だと理解したうえで支払っている。
- しかし、借金した人は、「この高金利の利息をちゃんと納めないと、業者から借金の返済を遅延したと言われて、借金の元本全額を一括で返済しろと求められる」と誤解している。そのため、仕方なく支払っている。
- このような誤解が生じるような契約のもとで支払った利息は、事実上強制的に支払わされたものだと言える。
そして、「債務者が、事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には、制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。」と、みなし弁済規定に当てはまらないとする判決を下しました。
この判決は、シティズという、現在はアイフルに吸収された貸金業者が被告となった判決であることから「シティズ判決」と呼ばれています。
グレーゾーン金利、現在はどうなっているか?
実は、出資法と利息制限法の利率は完全に同じになったわけではなく、出資法の上限利率は一律20%となっており、グレーゾーンは完全になくなったわけではありません。
先述の通り、利息制限法の利率は借りた金額によって15%~20%となっているのに対し、出資法の上限は20%なので、「10万円以上~100万円未満」を借りた場合と、「100万円以上」を借りた場合は、グレーゾーンが発生することになります。
しかし、法改正により、現在では、貸金業者が利息制限法違反の高金利で貸し付けた場合には、行政処分の対象になるというルールになっています。
刑事罰ではなく、行政処分であっても、営業停止処分などダメージの大きいペナルティが存在するため、貸金業者は利息制限法の範囲内でお金を貸し付けています。したがって、事実上、グレーゾーンは消滅したということができるでしょう。
所属弁護士会 東京弁護士会 No.44304
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